日記>本日の判例スポット(2)

本日の判例スポット(2)

 こんばんは。管理人です。

 先日関西に行ってきたので,判例スポットネタを補充できました…がその前にストックから。

 というわけで,本日の判例は,こちらー!

鞆の浦

 今回は鞆の浦景観訴訟を取り上げるべく,広島県福山市鞆の浦をご紹介します。

鞆の浦 鞆の浦

 道路工事のための埋め立て計画が立案され,それに対する反対運動が生ずる中で,埋め立て免許への差止訴訟が提起された事案で,地裁で終結(高裁段階で計画が撤回されたため,訴訟取下げ)した裁判例なのですが,司法試験受験生レベルでも知る人ぞ知る裁判例な気がします。

 本裁判例は,排水権や(組合で放棄されていた)漁業権について原告適格を否定する一方,国立マンション事件の景観利益の判旨を参照し,鞆の景観を法律上保護に値する利益だとして原告適格を肯定しました。そして,「重大な損害を生ずるおそれ」や補充性についてもみたすとして,差止訴訟の訴訟要件を充足していると判断しました。さらに,本案についても,「鞆の景観の価値は,(中略)私法上保護されるべき利益であるだけでなく,瀬戸内海における美的景観を構成するものとして,また,文化的,歴史的価値を有する景観として,いわば国民の財産ともいうべき公益である。しかも,本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば,本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が鞆の景観に及ぼす影響は,決して軽視できない重大なものであり,瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから,これについての政策判断は慎重になされるべき」と判断し,調査ないし検討が不十分な本件では,裁量権の逸脱があり,差止請求が認容されると判断しました。

 地裁の裁判例とはいえ,景観利益に基づいて差止請求を認容したということで,インパクトのある裁判例なのでしょう。

 現地に行ってみた感想としては,鞆地区の少なからぬ住民にとって,道路を通すことより,自然資源を残す利益があるのではないか,景観利益一本で請求認容になったのも納得できるということでした。「十分な調査,検討」がなされていれば結論が変わった可能性はあったとはいえ,鞆の浦の海岸を埋め立てるのは,観光業に少なからず悪影響が生じたでしょうから,取り下げでまとまってよかったのではないでしょうか。

 裁判例当時から変わらぬ景観が残されているので,どのような景観が景観利益として主張され,裁判所に差止請求を認容させたのか,実際に見てみるのもよいと思います。

(埋め立て予定地とは離れるものの,観光名所の仙酔島。鯛むすびがおいしかったです。)

鞆の浦