日記>知財部修習わず
知財部修習わず
ご無沙汰しております。管理人です。
結構間が開いてしまいましたが,全国プログラムで知財部修習に行ってきたので,その振り返りでもしようかと思います。書かないほうがいいと思った部分まで厳格に省いた結果,かなり抽象的になっていますが,来期以降(というかA班の方含む)の参考になれば。
- (1) 地裁中心に一般事項
- とにかく記録の量が多く,時間が足りないです。特許・著作権について司法試験でやった程度には学修したという前提でプログラムが組まれていますが,復習しておくのは当然として,髙部さんの実務書(きんざいから出ている単著の方でも商事法務から出ている編著の方でもお好きな方で)くらいは読んでいたほうが良いと思います。商標・不競についてもある程度勉強しておくことをお勧めします。体系がわかっていないと調査するにも間に合いません。(裁判所の人が見ていた場合向け:座談会でいう雰囲気でもなかったので言っていませんが,プログラム当選者に対し「髙部さんの本読んどいてね~」くらい言っておいてよいと思います)
- 意匠は少ないですが,特許,著作権,商標及び不競を全般的に見ることができます。選択型でいきなりやってきて期間内で全件読み込むのは不可能だと,部総括クラスがおっしゃるので,目的意識をもって,見たいものをある程度選別するのもありだと思います(もっとも,私は特許は来年以降のことを考え見ておきたいと思いつつ,他の類型も関心があったことに加え,代理人活動がどう変わるのか/変わらないのかも見ておきたいと思ったので,できるだけ全部読むようにしました)。
- 修習内容ですが,配属部によりかなり違うようです。記録については,①記録を自由に読ませる部と,②記録を読むのは無理と判断して事案の概要と争点を裁判官が伝える部の2パターンがありました。起案(全体で行うケース起案以外)については,③必須とする部,④任意とする部の2パターン(起案について,行わない部もあったようですが,申し出ても拒否されるという類ではないように思います)がありました。私の配属部は①かつ④で,かなり自由だったように思い,私としてはよかったのですが,来年以降の方は配属部の指示に従ってください。
- 事件(主に弁準)を傍聴して,それについて裁判官にコメントするのが基本の流れになります。記録をなるべくてきぱきと読み,しっかり質問ないし議論をできるよう心がけましょう(反省を含む)。どこが争点になっているか,重要な証拠は何かを意識すれば,多少は整理しやすくなるのではないかと思います。調査官の調査報告書があればそれもフル活用しましょう(原文を読むのが当然大事ですが,裁判官も調査報告書を相当参照している以上,これを見るのは裁判官の追体験という意味で肯定できます)。
- 事件検討としてクレーム及び明細書を読む初めての機会になるのではないかと思います。当事者による分節に捉われず,しっかり特許公報の原文を見て,明細書に照らしてクレームをどう解釈すればよいのか,短い時間ですが脳みそフル回転で考える良い機会になります。
- 抽象的な判断内容(著作物の類似性とか商標の類似性,結合商標の分解の可否等)に対し,ケースバイケースな面は多いながら,実際にはどう向き合っているのか極めて参考になります。
- 実際の事件である以上,結論が重要で,そのため,座学で意識しづらい損害額の推定規定が頻繁に出てきます。特許の場合と商標の場合でどこが同じでどこが違ってくるのか,条文には表れないところまで実感できると面白いと思います。
- おそらく来年以降もケース起案があると思います。修習生同士で合議して部ごとに作成するはずですが,クレーム解釈等について他の人と議論する良い機会です。題材の(おそらく既済)記録をよく検討して,十分に発言できるようにするとよいように思います(もっとも,私の場合テンションが上がったため,最後の方わーっと喋って勝手に殆ど起案してしまいましたスイマセン)。
- どういうところで和解を勧めているか,二段階審理モデルも意識しながら見てみると,この段階のこういう発言ではこの当事者に対し有利・不利な心証をもっているのか垣間見ることができ,勉強になるのみならず面白いと思います。
- 起案が任意の場合でも,隙間の時間をうまく使って取り組んだ方がよいと思います。私の場合,かなり無理矢理取り組んだ感は否めないのですが,当事者の主張整理や釈明すべき点の整理,判例の射程(というか使い方)の理解に資しました。
- (2) 地裁以外ほか
- 特許庁見学は,漫然と行くとホームページ見ればいいじゃん的な内容で終わってしまうので,訴訟レベルと特許庁レベルでどこに考え方の違いが生ずるかなど,聞いてみたい問題意識をもって質問するとよいように思いました(私がしてみたのは,特許無効の抗弁が条文上もあり,認められるケースがあるが,特許庁でしっかり審査したうえでなぜ事後的に無効理由が見つかるのか,特許庁と訴訟でどういう点に見方の違いが生ずるのか,あれば教えてほしいというようなものなど)。
- 知財高裁では,審決取消訴訟を見ることになると思います。紙だと実感しにくいダブルトラックなど,審決取消訴訟周りのお話を実感する良い機会です。また,当事者系と査定系の色合いの違い(当事者系の方が地裁で見るのに近い?)も実感できるとなおよいかと思います。
- 所長講話がありがたいお話でした(別の日の日記に書きます)。
- 専門委員が入る事件があるかどうか,技術説明会がある事件があるかどうかは,修習期間との兼ね合いで運次第です。専門委員の活動や技術説明会における代理人の役割を見ることができた人は,幸運だと思いましょう(私は技術説明会のスライドを見ることができただけでした…)。
- 知財部に行ってみると,技術絡みの事件では,調査官の役割がかなり大きいことが実感できます。調査報告書は,裁判官にどういう点をどういう文献を参照して説明しているのか,争点に対する判断の形成にどう寄与しているのか知るうえで,絶対に見ておいた方がよいでしょう(調査報告書はある程度複雑な技術が絡めば,おそらく出てくるので,期間中に見られるのではないかと思います)。また,調査官は別室にいらっしゃるのですが,修習生歓迎会にも顔を出してくださるので,ぜひお話を伺うことをお勧めします。
- 調査官室見学の時間を設けられれば,作っていただけると大変修習の実が上がるかと思います(座談会で要望として挙げるのを忘れていた事項)(個別起案を片づけたりいろいろやっていたら行く機会を失してしまった…来年以降の修習生は調査官室を見たい旨宣言してみてもよいかもです)。
- 書面がわかりにくいから負けさせるなんてことはしないけど,負けたくないならしっかりわかりやすい書面を作るように,とのことでした(知財部特有ではありませんが,取扱事件の性質上特に大事かもしれません)。他にも,知財弁護士は書面を期日を守って提出するので驚いたなど,常識的な部分を常識的にこなすのが当然であるようになっているのが窺えました。
- いろいろ書いてきましたが,知財事件も民訴・行訴であるので,民法・民訴法や行政法(行訴)の理解が重要だと感じさせられました。
弁準中心であまり表に出てくる期日が少ないので,知財部修習というのはいろいろな事務所の先生方の多様な事件を,手続の様々な段階で見ることができ,非常に貴重な機会だったと思います。東京地裁ということで,久しぶりに東京で活動したのですが,非常に良い刺激になりました。配属部の皆様には心から感謝申し上げます。
来年以降知財に興味のある方がいれば,ぜひ応募することをお勧めします!