裁判例>不服2011-8105
審決 不服2011-8105
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特許権存続期間延長登録願2009-700156「血管内非細胞増殖因子アンタゴニスト」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
1.手続の経緯
本件出願は,平成21年12月17日を出願日とする,特許権の存続期間の延長登録の出願であって,平成23年1月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年4月18日に拒絶査定不服審判が請求され,その後,平成28年2月1日付けで手続補正がなされたものである。
2.本件出願の内容
本件出願は,特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったために,特許第3398382号(以下,「本件特許」という。)の特許発明の実施をすることができなかったとして,5年の特許権の存続期間の延長登録を求めるものである。
そして,平成24年9月6日付け手続補正書により補正された本件出願の願書には、その政令で定める処分(以下,「本件処分」という。)の内容として,以下の事項が記載されている。
- (1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
- 薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
- (2)処分を特定する番号
- 承認番号 21900AMX00910000
- (3)処分の対象となったもの
- ベバシズマブ(遺伝子組換え)
- (4)処分の対象となったものについて特定された用途
- 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用における、成人への,ベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)での,投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射。
3.本件特許及び本件特許発明
本件特許は,1992年10月28日(特願平6-510999号)を国際出願日として出願され,平成15年2月14日に特許権の設定登録がされたものであって,その特許発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~11に記載されたとおりのものである。(以下,請求項1~11に係る各特許発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明11」という。また,これら特許発明1~11をまとめて「本件特許発明」という。)
- 「【請求項1】抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する、癌を治療するための組成物。
- 【請求項2】抗体が抗hVEGF抗体である、請求項1に記載の組成物。
- 【請求項3】抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の組成物。
- 【請求項4】抗体がヒト型化されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
- 【請求項5】抗体が腫瘍サイズを減少させるのに充分な量で用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
- 【請求項6】腫瘍が固形悪性腫瘍である、請求項5に記載の組成物。
- 【請求項7】抗体がVEGF介在脈管形成を阻止することにより腫瘍サイズを減少させる、請求項5または6に記載の組成物。
- 【請求項8】抗体が細胞毒性部分に結合している、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
- 【請求項9】細胞毒性部分がタンパク質細胞毒素またはモノクローナル抗体のFcドメインである、請求項8に記載の組成物。
- 【請求項10】他の癌の治療剤と、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
- 【請求項11】放射線学的治療に対して、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。」
4.当審の拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由は,本件出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから,本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当するというものであり,その具体的な理由の概要は,
特許発明のうち本件処分との対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,本件処分と同じ承認番号が付された平成19年4月の先行処分によって実施できるようになっていた。
というものである。
5.判断
(1) 承認の対象となるう医薬品は,承認書(承認申請書部分を含む。以下同様。)に記載された事項で特定されたものであるのに対し,特許発明は技術的思想の捜索を「発明特定事項」によって表現したものである。
したがって,特許法67条の3第1項第1号の判断において,「特許は罪の実施」は,処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく,処分の対象となった医薬品の承認書に気刺された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当するすべての事項(以下,「発明特定事項に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。
そして,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分(先行処分)が存在する場合には,特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,選考処分によって実施できるようになっていたといえ,特許法67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じる。
(2) これを,本件について検討する。
ア. 本件特許発明1について
本件特許発明1における「・・・を治療有効量含有する,・・・を治療するための組成物」なる発明特定事は,医薬の発明であることを表現したものといえるから,本件特許発明1は,「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」を有効成分とし,「癌」の治療を用途とする医薬の発明であるということができる。
一方,延長の理由を記載した資料中の,「審査結果 平成21年8月21日作成」と表記され「4」の頁番号が付された頁によれば,本件処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
ここで,「ペパシズマブ(遺伝子組換え)」は,ヒト型化された抗VEGF(抗hVEGF)モノクローナル抗体であってヒトVEGF-Aアイフォームを中和する性質を有しており(本件出願の審査係属時に平成22年9月27日付け意見書に添付して提出された参考資料1中の,第330頁右欄第11~15行参照。),本件特許発明1の有効成分である「抗抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」に該当する事項である。
また,効能・効果である「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」は,本件特許発明1の用途における治療対象である「癌」に該当する事項である。
これに対し,本件処分と同じ承認番号21900AMX00910000が付された,本件処分より前の平成19年4月の先行処分(以下,「先行処分」という。4.の拒絶理由で引用された「先行処分」と同じ。)に関する資料である,医薬品医療機器総合機構のホームページからアクセス可能な以下のURL:
http://www.pmda.go.jp/shinyaku/P200700027/450045000_21900AMX00910_A100_3.pdf【管理者注※1】
に掲載された資料のうち「審査報告書 平成19年2月14日 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」の標題が付されたものの第4頁「審査結果 平成19年2月14日作成」によれば、先行処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
そうすると,先行処分は,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」である「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」及び「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を備えた先行医薬品についてのものである。
してみると,本件特許発明1のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。
イ. 本件特許発明2~11について
本件特許発明2~11は,いずれも本件特許発明1における発明特定事項に該当をさらに限定した発明であるか,又は,新たな発明特定事項を追加することによりさらに限定した発明である。したがって,これら本件特許発明2~11のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲(以下「範囲2」という。)は,本件特許発明1のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」で特定される範囲(以下「範囲1」という。)に包含されるか又は一致するものである。
そして,上で述べたとおり,範囲1が先行処分によって実施できるようになったといえるのであるから,当該範囲1に包含されるか又は一致する範囲2もまた,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。
ウ. 請求人の主張について
請求人は平成24年9月6日付け意見書において,以下の(i),(ii)のような主張をしている。
- (i) 先行処分(治癒切断不能な進行・再発の結腸・直腸癌)との関係において,こと本件処分(本件処分で承認された特定の用法での使用)を受けるにあたっては,安全性確認のため臨床試験を実施することが当局から要求され,6年もの相当の期間を要する臨床試験を必要とされた経緯に鑑みれば,先行処分の効果・効能に加えて用法・用量も勘案されるのが相当である。
- (ii) 本件処分により「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」について承認された「ベバシズマブとして1回7.5 mg/kg(体重)での投与感覚3週間以上の点滴静脈内注射」の使用により,XELOX(カペシタビンとオキサリプラチンとの併用レジメン)との併用療法が可能となり,見かけ上の効能mataha 校歌は同一ながら,その適用対象が拡大した。
しかしながら,本件特許発明は,請求人の言う用法・用量に対応する発明特定事項を有するものではないから,上記のとおり,本件特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は先行処分によって実施できるようになっていたというほかない。(i)で主張するように,本件処分を受けるために6年間の臨床試験が必要だったとしても,また,(ii)で主張するように,本件処分を受けたことで特定レジメンとの併用療法が可能になったとしても,それらのことが,本件特許発明が先行処分によって実施できるようになっていたか否かの判断に影響を与えるものではない。
6.むすび
以上のとおり,本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないから,本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当し,特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成25年3月5日
【※1:2018年1月現在,当該PDFファイルの所在は,http://www.pmda.go.jp/drugs/2007/P200700027/450045000_21900AMX00910_A100_3.pdf】