裁判例>最判昭和61年4月25日集民147号637頁

最判昭和61年4月25日集民147号637頁

主文

 原判決を破棄する。

 被上告人の控訴を棄却する。

 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

 上告代理人藤井俊彦、同大島崇志、同野崎彌純、同古谷和彦、同上野至、同高須要子、同後藤博司、同福田泰三、同星野忠吉、同鈴木夏生、同伊藤繁の上告理由について

 一 原審の適法に確定したところによれば、被上告人は、昭和47年4月17日、名称を「除草組成物」とする発明につき、特許出願をし(昭和47年特許願第38567号)、昭和54年10月13日、本件出願について出願審査の請求をしたが、上告人は、本件出願審査の請求が特許法48条の3第1項所定の期間経過後にされたものであることを理由として不受理処分にした、というのである。

 被上告人は、特許法48条の3第1項所定の期間の不遵守により将来発生すべき特許権を得ることができなくなるという重大な損失を受けるから、右期間の不遵守について民訴法159条1項を類推適用すべきであり、本件において被上告人に同項所定の責に帰すべからざる事由があると主張し、上告人に対し、本件不受理処分の取消を求めたところ、第一審は、特許法48条の3第1項所定の期間を遵守しなかった場合について、民訴法159条1項を類推適用する余地はないとし、本件出願は、右期間内に出願審査の請求がされていないから、特許法48条の3第4項の規定により取り下げられたものとみなされ、したがって、本件訴えは、本件不受理処分の取消を求めるにつき法律上の利益を欠くとして、これを却下した。

 これに対し、原審は、特許法48条の3第1項所定の期間も民訴法所定の不変期間と同視して、これに民訴法159条1項の規定を準用すべきであるから、被上告人が右期間を遵守することができなかったことについて、その責に帰すべからざる事由があつたかどうかを審理すべきであるとして、第一審判決を取り消したうえ、本件を第一審に差し戻した。

 ニ しかしながら、原審の右判断は、到底是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 特許法は、同法24条、146条、147条3項、151条、169条2項、4項、171条2項、190条のように特別に規定する場合にのみ民訴法の規定を準用することにしている。また、特許法は、拒絶査定に対する審判の請求期間(121条1項)、補正の却下決定に対する審判の請求期間(122条1項)、再審の請求期間(173条)について、右各期間の不遵守の場合についての救済規定(右各条各2項)を設けているが、いずれの場合も、特許に関する行政行為の効力をできるだけ早期に確定させて法律関係の安定を図るため、民訴法159条1項の規定とは異なり、期間不遵守の理由がなくなつた日から14日以内で、かつ、その期間の経過後六月以内に限り当該請求をすることができることとし、それ以後は事由の如何を問わず当該請求をすることができないものとしている。ところが、特許法48条の3第1項所定の期間については、特許法に民訴法159条1項の準用規定が設けられていないし、特許法に右期間の不遵守の場合についての救済規定もない。

 また、民訴法159条1項にいう不変期間とは、法律により特に不変期間と定められたものをいうのであって、民訴法159条1項により追完を許されるのは、右のような不変期間に限ると解すべきである(最高裁昭和32年(オ)第1236号同33年10月17日第二小法廷判決・民集12巻14号3161頁)。そして、特許法は、審決等に対する訴えの提起期間(178条4項)のように、不変期間とする場合を明文の規定をもって定めているところ、特許法48条の3第1項所定の期間については、これを不変期間とする明文の規定を設けていない。

 そうすると、特許法の趣旨は、同法48条の3第1項所定の期間の不遵守が出願人の責に帰すべき事由によると否とを問わず、右期間経過後は出願の取下げを擬制することにより(同条の3第4項)、以後の手続を明確化し、特許法律関係の安定化を図るところにあると解すべきである。

 以上みてきたところによれば、特許法48条の3第1項所定の期間を遵守しなかった場合について、民訴法159条1項の規定を準用ないし類推適用する余地はないものというべきである。これと異なる見解を採る原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、被上告人は、本件出願につき、特許法48条の3第1項所定の期間内に出願審査の請求をしなかったものであるから、本件出願は、同条の3第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。したがって、本件訴えは、本件不受理処分の取消を求めるにつき法律上の利益を欠くから、却下を免れない。これと結論を同じくする第一審判決は正当であり、被上告人の控訴は、これを棄却すべきである。

 よって、行政事件訴訟法7条、民訴法408条、396条、384条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島 昭 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一)