裁判例>最判平成11年4月22日集民193号231頁

最判平成11年4月22日集民193号231頁

主文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする

理由

 上告代理人近藤惠嗣の上告理由について

一 本件は、特許権者である被上告人が当該特許についてされた無効審決の取消しを請求するものであるところ、原審の適法に確定した事実関係及び本件訴訟の経緯の概要は、次のとおりである。

1 被上告人は、名称を「六本ロールカレンダーの構造及び使用方法」とする特許第1735179号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。本件発明に係る特許(以下「本件特許」という。)について、特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載は、別紙一のとおりである。

2 上告人は、平成5年9月14日、特許庁に対し、本件特許を無効にすることについて審判を請求し、平成5年審判第18041号事件として審理された結果、平成7年12月13日、本件明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明に係る特許を無効にすべき旨の審決(以下「本件無効審決」という。)がされた。被上告人は、平成8年2月8日、本件無効審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。被上告人は、平成8年11月13日、本件明細書の特許請求の範囲の記載等を訂正することについて審判を請求し、平成8年審判第19266号事件として審理された結果、本件訴訟の原審口頭弁論終結の前である平成9年1月8日、右訂正をすべき旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)がされ、確定した。本件訂正審決により、本件明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載は、別紙二のとおりに訂正された。

二 特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という)の取消しを求める訴訟の係属中に、当該特許権について、特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲が、明細書を訂正すべき旨の審決(以下「訂正審決」という。)により減縮され、訂正審決が確定した場合には、当該無効審決を取り消さなければならないものと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。

 審決に対する訴え(以下「審決取消訴訟」という。)において、審判の手続で審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は審決を違法とし又はこれを適法とする理由として主張することができないことは、当審の判例とするところである(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)。明細書の特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合には、減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから、通常の場合、訂正前の明細書に基づく発明について対比された公知事実のみならず、その他の公知事実との対比を行わなければ、右発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。そして、このような審理判断を、特許庁における審判の手続を経ることなく、審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきであるから、訂正後の明細書に基づく発明が特許を受けることができるかどうかは、当該特許についてされた無効審決を取り消した上、改めてまず特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきものである。

 もっとも、訂正後の明細書に基づく発明が無効審決において対比されたのと同一の公知事実により無効とされるべき場合があり得ないではないが、特許法は、123条1項8号において、126条4項に違反して訂正審決がされたことが特許の無効原因となる旨を規定するから、右のような場合には、これを理由として改めて特許の無効の審判によりこれを無効とすることが予定されているというべきである。

三 そうすると、本件訂正審決による本件明細書の特許請求の範囲の前記訂正のうち、ロール軸交叉装置及びロール間隙調整装置が所定のロールに分けて備えられる構成が付加された点並びに各ロール周速及び各ロール間のバンクの回転についての構成が付加された点は、特許請求の範囲の減縮に当たるものであるから、本件無効審決はこれを取り消すべきものである。

 したがって、本件無効審決を取り消した原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)