裁判例>最判平成17年10月18日集民218号79頁

最判平成17年10月18日集民218号79頁

主文

 原判決を破棄する。

 特許庁が無効2001-35183号事件について平成15年9月22日にした審決を取り消す。

 訴訟の総費用は上告人の負担とする。

理由

 1 原審の適法に確定した事実関係及び本件訴訟の経緯の概要は,次のとおりである。

 (1)上告人は,特許権の設定登録時の発明の名称を「包装され,含浸されたクリーニングファブリックおよびその製造方法」とする特許権(特許第2673339号。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。

 (2)被上告人は,本件特許の請求項1から26までに係る特許について,平成13年4月25日,特許無効審判を請求し,特許庁に無効2001-35183号事件として係属したところ,上告人は,平成15年6月27日,請求項の一部を削除して請求項の数を22とすること等を内容とする明細書の訂正を請求した。上記特許無効審判事件につき,特許庁において,平成15年9月22日,上記訂正を認め,本件特許の請求項1から22までに係る特許を無効にすべき旨の審決(以下「本件無効審決」という。)がされた。

 (3)上告人は,本件無効審決の取消しを求める本件訴訟を提起し,原審は,平成16年11月30日,上告人の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。上告人は,平成17年1月7日,上告受理の申立てをした。

 2 上告代理人ら提出の特許庁訂正2004-39263号事件審決謄本写し及び本件記録によれば,次の事実が認められる。

 (1)上告人は,平成16年11月16日,特許請求の範囲の減縮等を目的として,明細書及び図面を訂正することについての審判を請求した。この審判請求につき,特許庁において,訂正2004-39263号事件として審理された結果,平成17年1月12日,上記訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)がされ,本件訂正審決は,同月24日に確定した。

 (2)本件訂正審決は,本件特許の発明の名称を「包装され,含浸されたクリーニングファブリックを製造する方法」とし,請求項の一部を削除して請求項の数を4とすること等を内容とする訂正を認めるもので,これによって,特許請求の範囲が減縮された。

 3 特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に対して上告受理の申立てがされ,その後,当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し,特許請求の範囲が減縮された場合には,原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分によって変更されたものとして,原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由がある。この場合には,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったものというべきである(最高裁昭和58年(行ツ)第124号同60年5月28日第三小法廷判決・裁判集民事145号73頁,最高裁平成14年(行ヒ)第200号同15年10月31日第二小法廷判決・裁判集民事211号325頁参照)。

 そして,特許を無効にすべき旨の審決の取消しを求める訴訟の係属中に,当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し,特許請求の範囲が減縮された場合には,特許を無効にすべき旨の審決を取り消さなければならない(最高裁平成7年(行ツ)第204号同11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁,最高裁平成10年(行ツ)第81号同11年4月22日第一小法廷判決・裁判集民事193号231頁参照)から,本件無効審決は,これを取り消すべきものである。

 そうすると,論旨は理由があり,本件については,原判決を破棄し,本件無効審決を取り消すのが相当である。

 なお,前記事実関係によれば,訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民訴法62条を適用し,上告人の負担とするのが相当である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)