書評> 秋武憲一『離婚調停(第3版)』

『離婚調停(第3版)』

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【書誌】

コメント

 元東京家裁所長代行・仙台家裁所長が執筆した,離婚調停の全体を概説した一冊。

 家裁修習の時に家裁の上席判事が真っ先に勧めていた本で,公式本かと疑うレベル(多分持っていない調停委員を特定するほうが簡単なレベル)で調停委員も持っていた,定評のある一冊です。シェアが物語っているとおり,「離婚調停に携わる人に向けた実践の書」としての役割を果たしていると思います。

 本書の内容は,離婚調停の全体像を示したうえで,調停において問題になりやすい点の各論を記載しています。親権や面会交流,婚姻費用・養育費・財産分与など,紛争になりやすいポイントが網羅されており,それぞれの論点に対しいかなる解決方針を考えるか,示唆を得られるようになっています。また,Q&Aも豊富で,養育費でいえば,よくある疑問点20個分が挙げられています。また,本書は,調停条項例がふんだんに記載されています。家裁でも広く参照されている書籍の調停条項例というだけあり,通常はこのような条件になるだろうという,相場観を把握するのに適しています。また,調停委員になるのであれば,調停委員に向けた記載も盛り込まれているので,困ったときにひも解くと助けになるかもしれません。

 もっとも,本書は,あくまで元裁判官が,主に調停委員が読むことを想定して書かれているように思われます(例えば,30頁ほかの"break time"では,調停委員会の目線で,調停をいかに進めるか有益なポイントが書かれています。)。その他,各所に出てくる「注意点」も,調停委員が調停を進めるに当たっての注意点が書かれています。そのため,弁護士が依頼を受けた際に本書を参照するとなると,少々ズレを感じることはあります。また,専ら調停に着目して書かれているので,調停前の協議や離婚訴訟といった場面について記載はありません。

 上記のような注意点が挙げられるものの,本書は,家裁における離婚調停のスタンダードを示したものであり,その価値は高いと言えます。調停委員以外でも,調停におけるスタンダード・相場観を把握したり,手続内容の概要を把握したりするのに,本書を持つことは有益でしょう。

by Q.Urah