書評>アリエル・ルービンシュタイン『ルービンシュタイン ゲーム理論の力』

『ルービンシュタイン ゲーム理論の力』

bookcover

【書誌】

コメント

 ゲーム理論の第一人者が経済理論をどう考えているか,個人の経験にも引き付けて著した一冊。

 まず,邦題は「ゲーム理論の力」とありますが,ゲーム理論の教科書的なものではないので,そういうものを想定して読み始めると少々意表を突かれます。序章は多くが著者の経験談を占めているので,あまり個人的な話は好きでない,という方には少々辛抱がいる一冊だと思います。原題は"Economic Fables"なので,経済理論を寓話・物語として扱っている本書の内容に合っているのですが,なぜ訳するときにこういう題に変えたのかなあと思いました(某ミクロ経済学の本の影響?)。

 さて,本書ですが,著者の経験が多く書かれており,エッセイという面もあり,一方で具体例をゲーム理論の観点から眺めてみたりと,概説書でも自伝でもない構成になっております。内容については,経済理論は数式が用いられていても「真実」ではなく,科学というよりむしろ論理的に書かれた物語・寓話であるが,物語・寓話と同様に具体的現象に対する示唆を得ることもできる有益なものでもあること,理論の前提になる「合理性」といっても一筋縄ではいかないこと,学際領域の難しさ,落とし穴といった内容も扱っているほか,理論を濫用すること(実用性の偏重)に懐疑を示すなど,多岐にわたります。訳者まえがきにもあるように,経済学研究者だけでなく,実益を重視しているであろう「文系不要論」の論者やそれに反対する人,学問とは何か考えたい人など多様な向きに興味を持ってもらえるのではないかと思われる本です。

 本書は,具体的問題を見通すうえでのモデルの有用性を認めつつ,しかしそれを偏重しないという著者のバランス感覚,感性の鋭さを垣間見ることができ,刺激的な一冊だと思います。「合理的な人間」であったり,社会「科学」であったり,日々の学修でそういう言葉の使い方,考え方にどこか違和感を感じた人は,本書を読んでみるとスッキリするところがあるのではないかという気がしています。

 なかなかコメントが難しい一冊であります。

by Q.Urah