書評>藤原保信『自由主義の再検討』

『自由主義の再検討』

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【書誌】

コメント

 ソ連崩壊間もない頃に,社会主義の失敗が喧伝される中で,自由主義の展開と問題点を背後の思想史を踏まえて検討した一冊。

 高校時代に推薦図書になっていて読んでいたのですが,ふと思い出して再読しました。(今もないわけではないですが,)読み応えのある新書が発売されていた時代を実感させられます。

 本書は,第1章で自由主義とはどのような性質のもので,どのように展開してきたのか,古代ギリシャ・中世の思想も踏まえつつ,イギリスの思想家を中心として概観します。第2章では,ソ連が崩壊したとはいえ,社会主義から自由主義への問題提起は,なお傾聴すべきところがあるという意識から,社会主義の展開やその問題意識を検討していきます。そして,第3章と終章では,社会主義が十全に機能しなかった点を概観した後で,ロールズ,ドゥオーキン,ノズィックの議論を取り上げ,自由主義,とりわけ功利主義への批判を検討します。そして,ロールズらの議論も批判的に検討し,コミュニタリアリズムへの展望を語ります(ちょっと前にブームになっていたサンデルも出てきますね)。それぞれの思想家の取り上げ方,読み方,議論の展開は丁寧で,新書でありながら皮相的な内容になっていないところが流石といったところです。

 もっとも,新書という媒体上の性質もあり,最後は紙面が足りなかったのか,著者の展望であるコミュニタリアリズムの記述が薄くなっており,その点は残念なところです(著作集の方を読めということでしょう)。また,価値相対主義に対する問題提起は十分説得的であるし,著者は個人の生き方を強制するものではないと十分意識するものの,果たして価値相対主義を批判するとき,本当に強制が生じないのかというのは疑問が残りました(雑感ですが,対等な個人同士の対話がなされるのであれば格別,実際には「声の大きい」人が強制にもっていってしまうのではないかと感じます)。

 著者没後24年が経過し,ソ連崩壊ももはや過去のものになっていますが,現在も依然として存在する問題に一石を投ずる一冊であり,一読の価値があると思います。

 そういえばあとがきのB助教授誰なんだろう?(駒場を華麗なテニスウェアで闊歩しているのは東大生でない可能性が極めて高いのですが…)

by Q.Urah