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原田國男『裁判の非情と人情』

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【書誌】

コメント

 元刑事裁判官であり,量刑の研究などでも著名な著者による,裁判官の仕事,心意気について記した一冊。

 岩波の「世界」に掲載された連載を集めたもので,(刑事)裁判官の仕事がどのようなものか,著者がどのような心持で仕事に臨んできたか,裁判員裁判に対する意見といった内容が書かれています。

 元裁判官の著書ですが,裁判所の良いところは良いとしたうえで,批判すべき点(例えば,身柄拘束に対する姿勢など(153頁))は批判するという,バランス感覚に富んだ記載がされています。また,人定質問のような形式的部分でも被告人に配慮するポイントがあるなど,裁判官としての経験を踏まえた示唆もなされています。裁判官としての心構えも,調査官のほか東京高裁部総括に至るまで経験された,刑事裁判官の第一人者である著者であるからこその,充実した記載がされています。裁判官志望の方や修習に行かれる方はぜひとも一読されるとよいのではないかと思います。

 もっとも,著者は,裁判員裁判を経験されていないということなので,裁判員裁判を現場で体験した方が,(裁判所としての見解とは独立して,)本書に見られるような裁判員裁判に肯定的な見解を書けるのかという点は気になるところです。また,量刑について,著者が主張するように,ブラックボックスにしない「量刑の透明化・合理化」という点には共感できます。とはいえ,量刑データベースの公開がなされていない点や,裁判例が全件公開されているわけではない点で,第三者からの検証が十分にはしがたい現状について,踏み込みがなかったのは残念なところです。

 一時はやった瀬木比呂志『絶望の裁判所』を読まれた方が別の視点も知りたいという場合や,法科大学院生で(刑事)裁判官の仕事に関心のある方などにお勧めできる一冊です。

by Q.Urah