書評>平嶋竜太ほか『入門知的財産法(第2版)』

『入門知的財産法(第2版)』

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【書誌】

コメント

 気鋭の知財研究者による知的財産法の一冊本。

 後輩に「知財やってみようと思うんですけどなにか最初に読むのにいいのありますか?」と聞かれたとき,これまで上野ほか『特許法入門』と同『著作権法入門』を勧めておりました。とはいえ,これだと2冊にわたるし,司法試験くらいは対応できるのを最初に読めというのもなあと思っていたところだったので,ありがたい入門書が出たという感じです。

 本書の特徴は,前書きでも挙げられているとおり,重要なポイントを短い分量の中でも相当触れていること,図表を多く活用して読者の理解を助けていることの2点です。全体像を概観したうえで,要所要所をしっかり押さえているので,一回知財法を学修した人が復習がてら読み返すのも,頭の整理に有用だと思います。また,脚注は判例を挙げるにとどめ,本文と合わせて,判例通説の立場から書いているところも,最初の一冊として勧めやすいところでしょう。あと,商標法,不競法も収録されているのは,これまでの入門書だと少ないところ(本書が出た後,小泉直樹『知的財産法』(弘文堂,2018)が出たりしていますが)で,これもありがたい点でしょう。

 さすがに300頁強に特許,著作権,商標,不競を詰め込むと,書けない内容も多くなっており,本書は,本当は議論があるところだけれども,さしあたりなかったの如く飛ばされているところもあります(例えば,応用美術でTRIPP TRAPP事件は挙げられていないなど)。そのため,知財法をある程度かじりたい,資格試験で使う必要があるというのであれば,本書巻末のブックガイドも活用してより深く参考文献にも手を出す必要があります。

 知的財産法の講義を取ってみようか迷っている,司法試験の選択科目をどうしようか考えている人は,さしあたり本書を手に取って,知的財産法で扱うのはこういう内容なのかと思い浮かべてみると,有益な指針になることと思います。

(追伸)第2版でTRIPP TRAPPとかいろいろ補充されましたね。あと,最終章に著作権法と意匠法の重畳保護など,知的財産法として括られる法の相互関係についてもまとめた章が記載されていました。一冊で知財関係の諸法をまとめているからこそできる内容です。

by Q.Urah