書評>飯田高『法と社会科学をつなぐ』

『法と社会科学をつなぐ』

bookcover

【書誌】

コメント

 もともと法学教室に「法の世界へのバイパスルート―社会科学からみる法制度」として連載されていた記事を編集した単行本。

 第一章から終章までの6章構成で,それぞれの章にある程度のまとまり(ミクロな観点,マクロな観点といったレベルのまとまり)を持たせています。そして,27個の用語・概念をピックアップして,社会科学の観点から法を考えていくとどのように見えるのかを紹介しています。もっとも,一応のまとまりはありますが,もともとが読み切りの連載だったこともあり,気になるところから読んでいくということもできるようになっています。

 個々の項目ですが,用語の定義を示すべきところで示し,簡潔に的を射た内容になっているので,各章で何を扱っているのか掴みやすいと思います。しかし,紙面の都合もあり,個々の概念と法のつながりがどうなっているのかというところは,あまり触れきれずに終わっています(1頁ないくらいのことが多いです)。また,「ネットワーク」や「市場」,「心の進化」といった大きい概念になると,限られた紙面では回収しきれず,問題の一端を挙げて紙面が尽きてしまっている感じもありました。

 あと,著者も触れているとおり,法教連載ですが,法解釈学の勉強には直接は役立たないと思います。

 もっとも,本書は,個々の概念を簡潔にまとめており,参考文献も英語文献を含めて相当数明示されているので,法と経済学や法と心理学のつながりに興味のある方は,一冊目の本として読んでみると良いと思います。著者が挙げていた,「法解釈の前提となる前提になる事実認識を別の角度から研ぎ澄ますためのきっかけとなる」,「現在の法や法制度に欠けているものが何であるかを認識するためのきっかけとなる」,「法に何ができるのか,そして何ができないのかを分析するためのきっかけとなる」という3点の効能は,確かにあると感じました。また,本書を読んでいると,法解釈にくたびれたところに別の視点を持ち込んで,法がいろいろな分野の考え方とつながっていることを実感できるので,実定法のお勉強(たとえばしほーしけんとか)の息抜きにも適していると思います。

by Q.Urah