書評>垣内正(編)『会社訴訟の基礎』

『会社訴訟の基礎』

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【書誌】

コメント

 東京地裁商事部に在籍していた/している裁判官による,会社訴訟の各類型をコンパクトに概説した一冊。

 垣内さんに申し訳ないなあと思いつつおそらく「東京地方裁判所商事研究会」をもっと前面に押し出して,題名も「コンパクト類型別会社訴訟」にした方が売れるんじゃないかと思っています。どういうことかというと,東京地裁の商事研究会が執筆したことからご存知の方はお分かりのとおり,絶賛絶版中の『類型別会社訴訟I・II(第3版)』(判例タイムズ社,2009)の要点をコンパクトにまとめた書籍になっています。

 本書も,『類型別会社訴訟』と同じく,会社法上定められた訴訟類型を,場面ごとに分けて概説しています。20頁から22頁の表は,根拠条文と訴訟類型を極めて見やすくまとめております。そのうえで,取締役の地位,取締役の責任追及,機関決議,株主権,新株発行,計算書類閲覧,会社の設立・合併とそれぞれの場面における訴訟の説明がなされています。裁判官が執筆しているだけあり,要件ごとに整理された解説がなされているので,紛争を要件の観点から整理したいときに,本書は有益な示唆を与えてくれると思います。また,裁判例・条文の参照が丁寧にされているので,裁判官がいかなる裁判例を見ているのか垣間見ることができるという点でも,本書は有益であるといえるでしょう。

 もっとも,本書は,裁判官が端的にそれぞれの訴訟類型をまとめたものなので,他文献への参照は必要最小限度です。本書はコンパクトにまとめているので,深堀りしたいときには少々不便かなと思います。あと,これを言ってしまうとどうしようもないというところはあるのですが,なんだかんだで『類型別会社訴訟』の焼き直しというか,ポイントだけまとめた感があります。『類型別会社訴訟』を持っている人であれば,わざわざ本書を買わなくてもよいのではないかなあと思ってしまうところはあります。また,近時の法改正や判例のキャッチアップはできていないのも少々残念なところです(経営権紛争とかも含んでるから需要あるはずなのになぜにこの分野の本は改訂されにくいのだろうか…?)。

 以上のようなコメントはしましたが,執筆陣が執筆陣なだけあり,中身は信頼できますし,内容の整理のされ方も優れているので,個人で一冊持っておく価値はあると思います(特に,『類型別会社訴訟』がなぜか再版されない現状においては)。

 (というか判例タイムズ社は類型別再版しないなら商事法務なりきんざいなりに版権譲ってあげてください…)

by Q.Urah