書評>前田雅英(編集代表)『条解刑法(第3版)』

『条解刑法(第3版)』

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【書誌】

コメント

 手許にあると便利と定評のある条解シリーズの刑法版。神保町ブックフェスで何とか勝ち取ったのでこれは持っているというアレ(条解刑訴は争奪戦に敗れてしまいました(><))。

 コンメンタールの中ではコンパクトな条解シリーズの一冊ということで,著者に実務家も多いことからも伺えるように,実務で活用できる一冊というのを意識して書かれています。そのため,はしがきにもあるとおり,学説引用は最小限で,比較法的記述はカットするという方針で執筆されており,判例を中心とした構成になっています。

 本書は,条文ごとに要件の定義を,できるだけ裁判例に即して示しており,また,要件ごとに問題となる論点についても,多くの判例を参照しながら執筆されています。構成要件要素の裁判例上の定義を手軽に参照したいときであったり,ある条文の文言・論点についてどういう裁判例があったか概観したいとき,本書を開くと,その威力が発揮されます。わたくしも修習で本書を持ち込んでいたのですが,とりあえず問題となる条文を本書で確認してみたことはしばしばありましたし,ほかの修習生に「ちょっと見せて」と頼まれ,本書を適当に貸したりもしていました。定義をしっかり示す方針というのは,本書の長所だと思います。

 なお,2013年の出版なので,近年の法改正には対応しきれておらず,そこは最新の文献を参照する必要があります。もっとも,自動車運転死傷行為等処罰法は補遺でカバーされているので,性犯罪の改正あたりもカバーされるかもしれません。

 利用時の注意点としては,裁判例はある程度網羅されているのですが,学説はカットするという方針のため,他の文献にどのようなものがあるかということはあまり紹介されていません。調査目的なら大コンメンタール等も併用するのだという意識をもって活用した方がよいでしょう。また,判例・裁判例がなかったり,はっきりしない部分については,自然に前田先生の見解に流しているところがたまに見られますので,注意した方がよいと思います(このあたりは注釈・括弧書きでの文献参照を削減したことの弊害ですね)。

 総論部分,各論部分を一冊に圧縮したコンメンタールなので,修習で活用した実感としては,これ一冊で何とかなるということはなく,当然判決原文に当たる必要があるほか,大コンメンタールの同じ項目を参照して,より深く調査する必要というのはあるように思います。もっとも,当たりをつける,インデックス的に活用するという点においては,本書は前評判どおり,便利な一冊で,手許に置いておいて損はないように思いました。

by Q.Urah