書評>中山信弘『著作権法(第2版)』

『著作権法(第2版)』

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【書誌】

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 言わずと知れた中山先生の著作権法の体系書です。

 こちらも特許法同様,知財(著作権)を扱う人であれば必ず持っているといって過言ではない定番の体系書なので,コメントするまでもない気はするのですが,無視するのも気が引けるのでここで書いておきます。

 著作権法は詳細な体系書がいくつか出ていますが,その中でもスタンダードな地位を占めるのが本書でしょう。まず中山著作権法をスタートにしていろいろ議論するという扱いができると思います。また,現行法の解釈を軸にした伝統的スタイルの教科書を意識して書かれたとされていますが,「著作権法の憂鬱」の時代,インターネットの普及や強力なプラットフォームの出現といった噴出する現代的課題にも意識が及んでおり,淡々と現行法を解説したというわけではありません。コモンズという発想で,柔軟に著作物を活用していく視点も示されますし,権利制限についてはフェアユースの導入を支持しているように見られる点もままあります。そして,特許法と同じく,評釈類はデータベースから見てほしいとしています。もっとも,参照される裁判例は豊富で,注釈書や論文等も脚注で充実しているので,調査のとっかかり等にも使えますし,こういう充実した参照が丁寧な記載を支えているのだと思います。また,著作権法の方は中山先生が編著のコンメンタールがないからか,体系書で出すのが困難な問題についても,(具体的な処方箋ではないにしても)特許法より丸投げ感は小さい気がします。

 詳細かつ丁寧な記述がなされているとはいえ,少々気になるところがないわけではありません。例えば,創作性判断のところで,中山先生は個性という説明でなく表現の選択の幅という考え方をとるべきとされますが,果たしてどれほどの実益がある議論なのかというのは疑問に思うところです。プログラムの著作物といった現代的な創作物に対応するため,こういう考え方を提唱するという問題意識は分かるのですが,結局のところ選択の幅がある中である表現を選んだという,その所為に個性が見いだせ,結局のところ個性といっても選択の幅といっても説明できてしまうのではないかと思うところです(著作権百選の帖佐先生の解説にこういう視点が示されています)。また,詳細といっても,あくまで体系書なので,例えば引用の「正当な範囲」とか「公正な慣行」の具体的な判断基準が書かれているとかいうことはなく,今でも議論が出ているような部分はより詳細に注釈書等を調査・検討する必要が出てきます。

 司法試験で選択するだけであれば,基本書として本書を選ぶ必要はなく,上野ほか『著作権法入門』で十分です。もっとも,本書は,近年の体系書の中では最も詳しい部類のもので,裁判例や注釈書・論文への参照も豊富であるため,知財ゼミの参加者であったり,実務で著作権法を使う可能性がある人にとっては必携の一冊といえるでしょう。

by Q.Urah