書評>大橋洋一『社会とつながる行政法入門』

『社会とつながる行政法入門』

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【書誌】

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 著者が「行政法大好きプロジェクト」と銘打って,学部・ローで扱う行政法の内容を一冊に圧縮した入門書。

 本書の特徴は,まず,新聞に出てくるような具体的事例(つまり個別法)からのアプローチで,行政法で扱う各テーマを検討していくというスタイルです。初学者でなくとも,抽象的に裁量とか処分とかいうより,実際に裁量等が働いた場面なり判例なりを想定して検討することが有益ですが,本書は各テーマを考えるに当たって適切な具体例を思い浮かべられるよう組まれています。

 第2の特徴は,密度の濃さです。著者が大学で学んでほしいと思うことはすべて盛り込んだというとおり,各テーマの重要概念が説明され,さりげなく病院開設の判例ほか有名判例も(数は限定的ですが)盛り込まれているという相当の圧縮ぶりです。もともと2冊本で1,000頁超えになるところを,プロが本気を出して圧縮すればこうなるのかと,驚かされます。

 第3の特徴は,説明・整理のうまさがかなりのものであることです。具体例からアプローチすると,「~のような場合を行政指導という」など,定義の説明がなおざりになることもありますが,本書は多くの部分で定義も記しており,初学者の学修に適しています。また,図表も適所で用いられており,具体的事例のイメージがつかみやすくなっています。あと,行訴の抗告訴訟,当事者訴訟の図表での整理の辺りなんかは,予備校がパクりたいレベルではないでしょうか。

 ただ,わたくしの場合,一通り行政法の講義を聴いたり,教科書を読んだりしてから本書に至っているので,本当の初学者がどこまで消化できるかというのはよく分かりません。とにかく密度はえらいことになっています。あと,入門書なので,巻末にブックガイドがあればよかったのではないかと思います。

 個別法や具体的な事例から行政法を概観する本書は,藤田宙靖『行政法入門(第7版)』(有斐閣,2016)と並ぶ,「最初の一冊」の定番となるのではないでしょうか。

by Q.Urah