書評>佐久間毅『民法の基礎2 物権(第2版)』

『民法の基礎2 物権(第2版)』

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【書誌】

コメント

 佐久間先生の民法の基礎物権編です。物権編が少し前から絶版にされていたので,総則が改訂されたし物権も改訂されるか,と思っていたところの「約10年ぶりの大改訂」ということで,これもやはり喜ばしい改訂版です。

 民法総則から物権総則へと講義が続くことを想定しているのか,本書もまた,最初に教科書として用いて問題ないように配慮がなされています。内容も,本文では条文から素直に考えられる事例又は概ね判例を題材とした事例をベースに展開していくので,ベーシックな場合や判例で問題になる場合はどう考えるのか,つかみやすくなっています。

 物権については,債権法改正の影響が民法総則ほど大きくない(条文自体が民法総則のようにいじられていない)ので,改訂の程度は『民法の基礎1』に比べれば控えめです。もっとも,相続と登記に関する部分(92頁以下)は,平成30年改正を踏まえ記述がかなり改められています。また,相続がらみに加え,最新判例との関係で「発展学習」,「補論」のコーナーが新たに付け加えられる(例えば110頁や135頁以下)など,発展学習と補論がかなり改変されているように思います。また,最近のトレンドの反映として,所有者不明土地問題も一部加筆されています。

 発展学習や補論のコラムでは,なかなか高度な内容や議論のあるところに対する佐久間先生の見解も示されており,薄い内容の本ではありません。また,京大系の先生というだけあり,最初の一冊であることを想定しているはずなのに要件事実的な整理もなされており,ずっと使っていくことができる一冊です。

 そんなわけで,民法総則の方と同様に,高評価の一冊なのですが,改善点も同様のものが挙げられ,できれば脚注をつけてほしかったというのはあります。文中で出てきた判例の引用以外,教科書として用いられる想定だからか注がなく,発展学習の内容など結構高度な部分の参照先が不明なのが玉に瑕でしょう。改正法の部分も,改正法関係の文献や議論のもととなっている部会資料や議事録が挙げられていると参照しやすくよかったのではないかと思います。高度な内容を含み,長く使える本なだけに,ここは残念ではあります。

 とはいえ,物権総則の基本書の中では必須の部分から発展的内容まで非常に整理されており,良書であることに変わりはありません。物権総則の基本書で迷っている人がいたら,これがいいのではないかとお勧めできる一冊です。

by Q.Urah