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『法と心理学への招待』

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【書誌】

コメント

 立命館大学法学部および総合心理学部の教授陣が共同して作成した,法と心理学に関する入門書。

 本書では,実験心理学(社会心理学)と臨床心理学の観点から,民事・刑事それぞれで心理学の知見が活かされる場面を紹介しています。まず,法と心理学の概要として,主に刑事で問題になる場面を挙げ,概観しています。そのうえで,刑事法の分野で心理学がどうかかわるのか,虚偽自白が生まれるプロセス,公判外の報道等が陪審員の判断に与える影響,犯人識別供述の信用性といった場面に着目して説明しています。続けて民事で,悪質商法に巻き込まれるメカニズムやハラスメントによる被害,PTSDといった事項を取り上げ,損害賠償請求と心理学との関係を述べています。最後に,司法臨床として,家裁調査官が直面するであろう,少年の非行や家族内の紛争といった点も取り上げています。

 法と心理学は,従前も論文等は出されていたところではありますが,本書のように刑事民事を概観してまとめた本は乏しかったため,法と心理学という視点を広めるうえでも,本書は有意義な一冊であると思います。また,ケーススタディを意識しており,実際の裁判例や実験をモデルにした説例が付されているので,具体的な理解につながりやすいのも本書の特徴です。取調べの録画でアングルを変えるだけでも判断に影響が生じるなど,参考になる面があると思います。

 もっとも,本書の性質上,さわりにとどまっており,挙げられている事例も刑事や民事のポピュラーな場面にとどまっていると思います。個人的には,著作物の類似性とか商標の類否とかの判断の絡みで心理学の知見が何か活用できるのではないかと思っているところで,企業案件でも心理学がこのようにかかわるのだという事例にも触れられていたら,なおよかったのではないかと思います(とはいえ,場面が特殊になってくるので,本書のような書物でこうした内容が取り上げられないこと自体は仕方ないのですが。)。

 例えば東大ローの法のパースペクティブなどでは,先生によっては法と心理学に触れる機会はあると思うのですが,かなり限定的な場面にとどまったはずなので,法と心理学に興味のある方に加え,特に刑事事件を扱う方などは,読まれるとよいのではないかと思います。

by Q.Urah