書評>司法研修所(編)『事例で考える民事事実認定』

『事例で考える民事事実認定』

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【書誌】

コメント

 通称「ジレカン」と呼ばれる,事実認定の考え方を具体的な設例に即して対話形式で概説した一冊。71期では白表紙の中に入っていました。

 本書では,短い対話形式の中で,事実認定の際の重要なポイントが摘示されています。まず,書証を取り上げ,処分証書と報告文書,(類型的信用文書たる)直接証拠の有無と真正の成立の争いの有無から判断する判断枠組の4類型といった内容が概説されます。そして,「点」としての書証を結びつける「線」としての人証であったり,動かしがたい事実の4類型であったりの説明がされます。そして,動かしがたい事実との整合性を重視して,判断を行うとどうなるのか,その一例が設例に即して示されています。

 法科大学院時代にお世話になった派遣教員(裁判官)だった先生と飲んだ時,「何回も読むと,何回も発見がある」と伺いましたが,実務修習で実際の記録を用いながら事実認定の起案をやりつつ,本書も参照すると,まさにその通りだと思います。導入時点で読むのと,実務修習以降で読むのとでは本書の印象が変わります。民裁修習に関与する裁判官や70期以前に修習した方が,「ジレカンは読んでおけ」というだけあって,有益な一冊だと思います。

 ローによっては,民事実務科目で参考記録を用いながら事実認定も扱うようなので,白表紙が送り付けられてくる前に読んでみたいのであれば,どこかで入手するのもアリでしょう。

 ちなみに,設例の登場人物の氏名は,執筆者の遊び心が入っているそうです(伝聞)。

by Q.Urah