書評>司法研修所(編)『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』

『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』

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【書誌】

コメント

 家裁実務で養育費・婚姻費用を算定する場合に広く用いられている算定方式・算定表の最新版を示した冊子。

 平成15年に標準算定方式・算定表が作成されてから,養育費・婚姻費用はそれをベースとして特別な事情を事案ごとに考慮する形で家裁実務が動いてきましたが,養育費・婚姻費用の額が不十分であるなどの問題意識を受けて,標準算定方式・算定表が改訂されることになりました。

 算定表及び本書の概要(本書の1,2頁)は裁判所のHPで公開されていますが,標準算定方式・算定表がどのような根拠で作成されているか,その根拠を本書は詳しく示しています。算定表があれば養育費・婚姻費用の大まかな額は分かるのですが,やはりどういった根拠で額が定められているのか理解しておいた方が,相手方との交渉で説明を行うにしてもなんにしても有益であると思います。そうした意味で,今後の家裁実務を基礎づける一次資料として,本書を備えておくことには意味があると思います。

 もっとも,本書は紙数が少ないため,算定表から外れるべき特別な事情が何であるかなど,示していないことも多くあります。こうした点は,本書の脚注に挙がっている文献や他の実務書等も参照していく必要があります。また,算定方式・算定表の根拠も詰めていくとよく分からない部分もありますが,これは養育費・婚姻費用算定の簡易迅速性と予測可能性を実現するために,ある程度単純にすることがやむをえないのだと思います。

 先述のとおり,本書の概要と算定表は裁判所HPで公開されている以上,本書については事務所に1冊備え付けておけばよいという考えも成り立つところと思います。そのため,養育費・婚姻費用の算定根拠について深く理解するほうがよい,離婚事件を多く扱う方などは,本書を個人で購入する意味もあるのではないでしょうか。

by Q.Urah