書評>砂原庸介『大阪ー大都市は国家を超えるか』

『大阪ー大都市は国家を超えるか』

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【書誌】

コメント

 新進気鋭の行政学者が大阪を題材として,日本の大都市の在り方を考察した一冊。

 本書の内容は,まず,大阪に軸を据え,明治期から歴史をたどり,大都市をめぐる見方の対立軸を明らかにし,都市の抱える問題と政治の関係を取り上げます。そして,高度経済成長期からバブル崩壊にかけての都市の展開と停滞を描き,大阪維新の会の登場に至るまでを概観します。そのうえで,日本の大都市が提起する論点とそれに対する考え方を示します。

 大阪維新の会をめぐる報道は,代表が過激な物言いをしていたこともあり,センセーショナルに取り上げられがちでした。しかし,本書はそれとは対照的に,丁寧に歴史的背景からたどり,「大阪都構想」の背後にある問題,地域に根付いた細かい政策をとるには大きすぎ,国際都市として展開していくには小さすぎるという微妙な状況を描き出します。そして,「大阪都構想」が,突然現れたものではなく,戦前の關一市長のころからもともと大阪が抱えていた問題意識に根付いているものであることも明らかになります。「大阪都構想」が勢いで出てきている面も感じられるのですが,本書を読むと,いずれかの政党に片寄せするものではないにもかかわらず,荒唐無稽なものではないと感じられます。

 本書は戦前から最近までの大阪府・大阪市の政治史をコンパクトに概観する一方,単に大阪について記して終わりとするのではなく,日本の大都市一般にいえる問題を描き出しているところが,著者の展開力の表れているところであり,魅力と言えるでしょう。一方,少々前の著作なので,政党の状況は当然現在とは異なります。象徴的な代表が退いたほか,国政の政党も混乱する形で変遷している中,果たして本書の挙げる「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」のバランシングは測れるのか,気になるところではあります。

 今となっては沈静化していますが,「大阪都構想」や(大阪)維新の会の政策,また日本の都市政策を冷静に考えるうえで,有益な一冊ではないかと思います。

by Q.Urah