書評>高瀬正仁『高木貞治 近代日本数学の父』

『高木貞治 近代日本数学の父』

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【書誌】

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 類体論で業績を挙げ,『解析概論』が今でも広く流通している数学者,高木貞治に関する評伝。

 出生から幼少期,三高での教育,帝大での学修からドイツ留学を経て,類体論の論文執筆に至るまで,高木の一生を丹念に史料調査,インタビューの上記した一冊となっており,高名な数学者の人生を垣間見ることができます。また,『解析概論』執筆時のエピソードとして,「最早,我々の手で適切な解析の書物を作りあげるときにきているのではないか」という趣旨の発言があったことが紹介されていたり,退官後に「高数研究」の発刊に協力し,数学を一般に広めようとしたエピソードが紹介されたりしています。こうした,西洋を追いかけるだけでなく自らの手で体系を築き上げていこうとした姿勢や,一般人にも数学を解放しようとした姿勢から,高木の姿勢・人柄も感じられる一冊になっています。

 進路的に数学(特に高度なもの)を用いることは少ないのですが,「高校生のために」というコラムである程度解説があり,専門外の人でも読みすすめられるよう親切な作りになっています。明治~大正当たりの研究者や思想家の評伝を読むと,やはり近代日本を築いていこうという意気込み,迫力が感じられ刺激的であるように感じました。数学と(一見)関係ないような分野の方もこういう刺激は受けられるのではないかと思います。

 コラムでさらっと見ただけですが,やはり数式の美しさってあるよなあ,と久々に思った昼下がりでした。

by Q.Urah