書評>田中豊『法律文書作成の基本(第2版)』

『法律文書作成の基本(第2版)』

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【書誌】

コメント

 司法研修所教官,最高裁調査官を歴任し,慶應ローでも教鞭をとる著者による,法律文書作成に当たっての注意点,ポイントを記載した一冊。

 まず,法律文書作成についての総論から入り,法源と裁判手続をおさらいします。それに続いて,民事訴訟の進行順序に沿って,各場面で作成すべき書面の書き方や,作成の前提となる事情聴取のポイントを,事諸所に演習問題も交えながら概説していきます。ほかにも,訴訟外の書面として,契約書作成に関する一般的な注意事項も掲載されているほか,巻末には訴状等の書面の具体例が掲載されています。中立型の文書か説得型の文書かというのは,当然ではあるのですが,あまり明示されることはなく,勝手に悟ってくれという感があるので,本書を読むとその辺りの違いもすっきりするのではないでしょうか。また,最初の相談の場面で注意すべき点,尋問や証拠収集についても,少々紙面が割かれているのも,一連の流れをつかむうえで有益です。

 本書は,一定の民法,民訴法に関する知識を有していることが前提になっているような感があるので,法科大学院既修レベル以降に読むことをお勧めします。本書の内容は,民裁修習と弁護修習を通して,書面作成をした際にアドバイスされるような内容が書籍として体系化されてまとめられているもので,大変有益な一冊です。弁護士が起案する書面(訴状,準備書面等)についても,裁判官が起案する書面(判決書)についても,双方書き方が記されているというのは,裁判官と弁護士双方を相当期間勤めておられる著者ならではといったところでしょう。教官歴もあることからか,記述は丁寧に進められており,修習生や若手実務家にどういう点に注意すればよいのか分かるように書かれているのも長所です。具体的な書面作成と研修所でやるような要件事実及び事実認定がどう関わっているのか感じ取ることができます。

 ここまで民事訴訟周りの話しか出てきていないことからお察しかもしれませんが,「法律文書作成の基本」と銘打っていますが,刑事手続については触れられていません。文書作成の総論部分は共通するのですが,各手続において何をすべきかという点については,民事手続プロパーの部分と刑事手続プロパーの部分があるので,違う部分は刑事手続の書籍や刑裁修習,検察修習(及び弁護修習)で確認した方がよいでしょう(特に,民事訴訟では,裁判員裁判のように一般の方にもわかりやすくという要請は弱いように思います)。

 本書の演習問題は短く整理したもので,これだけで本文の理解に資するかはよく分かりません(私自身民裁修習と弁護修習を終えて,一定の実際の記録に接したり,判決起案や訴状・準備書面の起案をしたりしてから接したので,イメージがつかめているところがあると思います)。しかし,民裁修習・弁護修習を経験して本書を読むと,書面作成のポイントがきれいにまとめられていると感心するばかりです。

 修習生にお勧めの本としてしばしば目にするのですが,評判に違わず,一冊手許に置いておいてよい本だと思います(そういえば同期の修習生が言っていたのですが,kindle unlimitedの会員だと,本書の電子版が0円で読めるらしいですね)。

 (追伸)上記の条件下で,kindle版が無料で読めるのは初版の時のようです。第2版はunlimitedだろうが何だろうが有料のようです。

by Q.Urah