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『刑法(第3版)』

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【書誌】

コメント

 刑法の第一人者が,総論部分・各論部分を一冊にまとめた刑法の基本書。

 500頁程度で刑法全体をカバーできるということで,ある程度学修した人が,刑法の全体像を振り返るのには適した本ではないかと思います。また,刑法で取り扱う内容を,いったん本書で概観するという用法もあると思います(本書で概観というのもどうかなあとは思ったのですが,Google先生に聞いてみたところ,刑法の一冊本って滅茶苦茶少ないんですね)。

 本書の特徴としては,コンパクトに必要な箇所にはしっかり触れているというのが挙げられると思います。本書で触れられる項目や判例は,司法試験等の資格試験でも押さえておくとよいレベルとして,一つの目安となるのではないでしょうか。また,各項目でまず判例を踏まえた記述があり,これは学修者にとってはありがたい点です(各論の構成要件の定義を示すあたりは,樋口先生の助言(初版はしがき参照)の影響もある?)。

 とはいえ,一冊本ですので,かなり圧縮されており,かゆいところに手が届かないということはよくあるような気がします。試験であれば山口先生の本であれば『刑法総論(第3版)』,『刑法各論(第2版)』に当たったり,ほかの先生の本で二分冊化されているレベルの本に当たった方がスッキリすることも多いと思います(自主ゼミを組んでいた時は高橋則夫『刑法総論(第3版)』(成文堂,2016),『刑法各論(第2版)』(成文堂,2014)を持ってきた人がいて,当時の試験委員だったのもあったのか,それにしっくりくる記述があることがしばしばありました)。実務であればコンメンタールレベルで調査しますし,判例もデータベースを使っていくので,一冊本の意義というのは,目次のようなものになるのでしょう。なお,脚注であったり,一部の本文で山口説というところもあるにはあるのですが,判例の立場と学説の立場とは分けて書かれていますし,この点はあまり気にしなくてよいと思います。

 個人的には結構お世話になった本だと思いますし,刑法の本の中では相対的にコンパクトで持ち運びやすいということを考えると,手元に一冊備え付けておくとよいのかなあと思います。

by Q.Urah