裁判例>最判昭和60年3月28日判時1151号125頁

最判昭和60年3月28日判時1151号125頁

主文

 原判決を破棄する。

 上告人の本件訴えを却下する。

 訴訟の総費用は上告人の負担とする。

理由

 職権をもつて、上告人に本件審決の取消を求める法律上の利益があるか否かについて判断する。

一 上告人は、本件特許出願の願書に添附した明細書の補正をしたところ、補正却下の決定を受け、右決定に対する不服の審判を請求したが、審判の請求は成り立たない旨の本件審決を受けたので、本訴により本件審決の取消を求めているものである。

二 記録によれば、上告人は、昭和59年8月13日、特許庁長官あてに同日付「出願放棄書」と題する書面を提出して本件特許出願の放棄をしたことが認められる。

 ところで、補正却下の決定に対する不服の審判の係属中に特許出願の放棄がされると、その後は特許出願が係属しないことになるので、右審判は審理の対象を失うものといわなければならない。したがつて、補正却下の決定に対する不服の審判請求は成り立たない旨の審決があり、その審決に対する取消訴訟の係属中に特許出願の放棄がされると、特許出願人は、右取消訴訟において右審決を取り消す旨の勝訴判決を得たとしても、補正却下の決定に対する不服の審判請求を認容する審決を得ることはできないから、補正却下の決定に対する不服の審決請求は成り立たない旨の審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失つたものというべきである。

三 そうすると、上告人は、本件特許出願の放棄をしたことによつて、本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきであるから、本件訴えは、不適法として却下すべきであり、これを適法として本案につき判断をした原判決は、破棄を免れない。

 よつて、行政事件訴訟法7条、民訴法408条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 和田誠一 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一 裁判官 高島益郎)