書評>水町勇一郎『労働法(第7版)』

『労働法(第7版)』

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【書誌】

コメント

 水町労働法の第7版。分かりやすさと深さが変わらず同居しているおすすめの一冊。

 学部のころ荒木先生が在外研究か何かで,偶然水町先生の講義を受けていたので4版を使ったことがあったのですが,修習で労働関係の事件もあるだろうからと,5年ぶりくらいに購入しました。近時の「働き方改革」まで視野に入れた内容となっており,2年間隔という短期間の定期的改訂がなされているところではありますが,購入の価値ありと思います。

 内容ですが,オーソドックスな基本書で,学部の講義であればこれ一冊で十分なレベルの基本書ではないかと思います。実際に使ってみて,明らかに情報不足という感はありませんでしたし,修習で斜め向かいに座っていた労働法選択の修習生も,本書で司法試験はいけると言っていました。また,本文を読んでいくと,できるだけ読者を混乱させないように配慮したのか,判例通説ベースの記述となっているので,学修者にとってありがたい作りになっています。また,適度に判例を題材にした設例が設けてあり,労働協約例・就業規則例・36協定例も有斐閣ホームページでPDFで公開していることから,具体的なイメージをつかみやすいのも良い点かと思います。

 ここからが本書の特徴ですが,まず,分かりやすさを重視しつつ,深さを損なっていない点は特筆ものです。本書は,囲みトピックや脚注が豊富で,注を参照することで,著者の見解もしっかり表していますし,芋づる式調査にも適しているという至れり尽くせりっぷりです。「分かりやすい基本書」というと,著者の見解がなかったり,平板で面白くなかったりというイメージもありそうですが,本書は全くそういう問題点はありません。次の特徴としては,実定法の内容だけというより,労働に関わる社会的背景,政策面というのも,本書では厚く取り上げられているところが特徴といえるでしょう。第1編と終わりでは,法解釈というより社会面からの記述が厚くなっており,法の理解にも資するものとなっています。ここは著者が社研所属であるところも影響しているのでしょうか。

 菅野労働法であったり,各コンメンタールであったり,より重厚な労働法の文献は多々存在しますが,本書は幹となる部分を確かにし,そして脚注から各種文献・論文に飛べるようにもなっているので,初学者のみならず熟練者に至るまで,どういうレベルの人も持っていて損はないのでしょう。

 そういえば労働法の試験のチュッパチャップスが好きな森田さん,どちらの森田先生を念頭に置いて作成されていたのだろうか…

by Q.Urah