裁判例>最判平成4年7月17日集民165号283頁

最判平成4年7月17日集民165号283頁

主文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

理由

 上告代理人水田耕一、同萼優美、同萼経夫、同成田敬一、同中村寿夫の上告理由について

 原審の適法に確定した事実関係によれば、本件無効審判請求につき前にされた審決の取消訴訟における判決は、右訴訟の係属中に特許請求の範囲の減縮をも目的とした訂正審決が確定したことにより、訂正前の本件明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明を対象とした右審決は結果的に審判の対象を誤った違法があることになるとし、更に進んで、訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明につき無効原因はないとの判断も加えて、審決を取り消したというのであり、そうであるならば、右取消判決の拘束力の生じる範囲は、審決が審判の対象を誤ったとした部分にとどまるのである。本件無効審判請求につき更にされた本件審決は、右取消判決の拘束力に従い訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第一項に記載された発明を審判の対象とした上で、右発明につき無効原因はないと判断しているが、右判断は右取消判決の拘束力に従ってされたものではないというべきであり、これが右取消判決の拘束力に従ってされたものであることを前提とする原判決の説示部分には、審決取消判決の拘束力に関する法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。

 しかしながら、原判決は、訂正後の本件明細書の記載は特許法36条4項及び6項(昭和60年法律第41号による改正前のもの)の要件を満たしている旨の認定判断、すなわち、訂正後の本件明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明につき無効原因はないとした本件審決の判断が是認できる旨の認定判断をもしており、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができるから、原判決の前記説示部分の違法はその結論に影響しないものというべきである。

 以上によれば、特許無効審判事件についての審決取消判決には拘束力はないとして原判決の前記説示を論難する所論は、結局、理由がないことに帰する。論旨は、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官木崎良平 裁判官藤島 昭 裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也)