書評>新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
【書誌】
- 著者:新井紀子
- 発行所:東洋経済新報社
- 出版年:2018年2月2日(第1刷)
- 定価:1,650円(本体1,500円)
- ISBN:978-4-492-76239-4
コメント
「東ロボくん」開発を主導していた著者による,AI技術でできることとその限界,日本における読解力に対する危惧が記された流行の一冊。
前半第1章,第2章では,AIとAI技術の違いを説明し,現在のAI技術つまりコンピュータを用いた演算処理では,人間と同等の知能を有する状態にはならず,AIがある時点で人間を追い越していくシンギュラリティも生じないとしています。その際,東ロボくんプロジェクトにおいて東ロボ君がセンター試験の英語にも苦戦してしまうこと等を挙げることにより,現在のAI技術の限界点を描き出しています。一方,後半第3章,第4章では,現在の日本の中学生・高校生に対する調査により,子供たちの読解力が不足していることを指摘し,AI技術で対応できない部分は人間も対応できていないのではないかという問題をあぶりだしています。そして,AI技術で代替可能なホワイトカラーの仕事も多々あることを述べ,今後AIに代替されない仕事をやっていける人がどれだけいるのか,仕事はあるのに失業者もあふれている時代が来るのではないかと懸念が示されています。もっとも,著者は,「ほぼ日」を例にとり,人間にこそできる仕事があるということも指摘しており,今後のあり方を考えさせる一冊となっています。
本書ですが,最近「AI」という言葉がマジックワード化していて,何でもAIで効率化,解決できるというような風潮もあるように感じるので,まだAIは万能ではないということを明示する点で,有益なのではないかと思います。本書は,わたくしのようにコンピュータ関連を先行していない人が,少し頭を冷やして,今のAI技術の得意な点,苦手な点を把握するために読むのに適しているでしょう。
一方,著者によるリーディングスキルテスト(RST)を用いた分析には,少し違和感を感じました。「幕府が大名に命じたと幕府が大名から命じられたは同義か」という問題とか男女双方の愛称としてのAlexの問題などは,まだ読解力の問題として捉えられそうな気がします。しかし,点(1,1)を通りかつx軸と接している円を全て選べという問いあたりになると,著者が問題にしているような読解力の問題というべきなのか微妙な気がします(知識量の問題というべきか?もっともどのあたりで切り分けるか線引きも難しい…)。
というわけで,引っかかる点がないわけではないですが,なかなか面白い一冊で,バーッと読んでしまいました。
ところでこの本コンピュータ的なとこに強引に分類したけど良いのだろうか…?
by Q.Urah