書評>愛知靖之ほか『知的財産法』
『知的財産法』
【書誌】
- 著者:愛知靖之=前田健=金子敏哉=青木大也
- 発行所:有斐閣
- 出版年:2018年4月30日
- 定価:3,850円(本体3,500円)
- ISBN:978-4-641-17936-3
コメント
気鋭の若手研究者が中心となって知的財産法の全体を一冊にまとめた基本書。リークエでも知財が出たようです。
最近一冊で特許・著作権のみならず,意匠・商標・不競も扱うのが流行っているのでしょうか?別に司法試験対策本を出すのが出版社の役割ではないですから,リーガルクエストシリーズで学生レベルでも各法に触れやすい書籍が出ることは良いことではあると思います。入門書というより,一応のレベルを狙って書いた基本書ということで,詳しさもある程度のレベルに至っています。また,一冊で広く扱う特性を生かしてか,その編で扱っているのと別の知財法との関係ないし位置づけというのもかなり意識されていると思います。
個人的に秀逸だと思ったのは,前田先生執筆箇所の特許法総説の特許請求の範囲(クレーム)と明細書の個所です。いかなる範囲に特許権が発生するのか,明細書による開示という視点からかなりすっきりとした見通しを示されています。執筆者が論文を書いている部分であることもあり,非常に良い導入だと思います。
一方,ちょっと詰め込みすぎではないかという感はありました。一冊に詰め込むために具体例や図表を削減するというのは前書きでも記されているように意図的になされているようなのですが,裏目に出ているのかなと思います(先ほど挙げた特許法総説の個所は,筆記具の具体例があるからこそ素晴らしい導入だと思います)。初学者が本書で勉強すると,イメージがつかめなかったり,どうなっているのかいまいちよくわかりにくいといった場面が多々出てくるように思います。様々な工夫がなされているといいますが,さしあたり特許・著作権に絞って個々の記述を増やせば,こういう問題は解決できたのかなと思います。また,特許法の章立ての構成ですが,請求原因・抗弁・再抗弁という流れを意識した方がよかったのではないかと思います。6章,7章辺りの記述がやけに行ったり来たりすることになり,ここは工夫できたのではないかなと思います(上野ほか『特許法入門』はまさにその点が考えられている一冊です)。ページ数・冊数は増え,直近の判例までカバーしていないところではありますが,知財を学ぶというのであれば,まずは上野ほか『特許法入門』,同『著作権法入門』,意匠・商標・不競については茶園(編)のシリーズから読んだ方が良いのではないかと思います。
一見厳しい評価ですが,冒頭の総説はかなり秀逸だと思いますし,上野ほか『特許法入門』等が相手だったのが悪かったというほかない気もします。広範囲が一冊にまとまっていること,法学部,ローの講義で一通りやるような情報は詰まっていることから,一度学んだ人が一冊でざっと復習したいならよいのではないでしょうか。
by Q.Urah