書評>古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』

古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』

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【書誌】

コメント

 元検察官で東大,同志社でも教鞭をとる著者による刑訴法の論点解説本。

 東大ローの上級刑訴を受けたことがあるとわかるのですが,流れ,体系は完全に2年次の上級刑事訴訟法のソクラティックメソッドです(ただし学生がここまでぱっぱか回答していくわけではない)。強制処分と任意捜査のところで撮影をまとめているのとかたまにアメリカの議論が出てきたりする(科学的証拠のドーバート基準等)あたり,完全に上級刑訴です。某先生ほかから,ローの講義が元ネタだと伺ったこともあります。おそらく『ケースブック刑事訴訟法』(有斐閣)も参照対象になっているのも,その辺りの影響でしょう。

 中身ですが,講義を基に,著者が書き記す際に整理して問答型にしているので,各論点がローの講義よりもテンポよく,脱線や混乱が排除された形で記されています。また,各章末尾では,学生からよく出る質問や教授の立場から見てよく誤解がある点について付言されているので,疑問点の解消に役立ったり,思考の整理をするのに役立つこともあると思います(といっても要証事実の説明なんかはかなり丁寧ですが,修習辺りまで行かないとなかなかピンと来ないよなあと思わないでもないところ)。参照判例・文献はローで勧められるものプラスアルファなので,有益な情報です。

 こんなわけで,既修者向けの刑訴のソクラティックメソッドが元ネタなので,網羅性には欠けます。勾留・保釈とか公判前とか上訴とかすっ飛ばしているところは結構あります。論点的なとこでも実況見分調書の写真とかその辺の話が書かれていないという,なぜ飛んだのかよく分からないところはあります。また,「事例演習」といいますが,どちらかというと判例類似の事例を取り上げたうえで,そこで問題になっている論点を解説していく一冊だと思った方がいいような気はします。純粋に問題演習したいなら,司法試験なり予備試験なり過去問も増えているので,そちらでよいのではないかと思います。そして,上級刑訴で扱う題材なだけあり,対話形式にしようが難解なところは難解です。

 刑訴の重要論点を学生向けに解説した本が欲しいという方だけでなく,ローの既修者がどういう講義を受けているのか知りたい方にも一読を勧められる一冊だと思います。

by Q.Urah