書評>伊藤靖史ほか『会社法(第4版)』

『会社法(第4版)』

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【書誌】

コメント

 学部生・ロー生におなじみの,リークエシリーズの会社法です。第4版になり,CGコードについて加筆されたり,企業グループに関する記載が第10章にまとめられるなどの改正がなされました。

 学部の会社法の講義などでは,私の頃は神田先生の会社法(緑色の年刊本)が指定されていたのですが,いかんせん神田会社法は会社法に慣れている人がまとめノート的に見るものなので,初学者には厳しい面もありました。そんな中,より初学者に親切な基本書として出てきたのが,本書です。

 本書の長所は,それぞれの概念の定義をできるだけ記載し,根拠条文も丁寧に拾い上げているところも思います。その上で,その条文に関連する論点の判例にも触れているので,司法試験レベルの内容はしっかり網羅されていると思います。また,リークエより前の基本書では,図表や計算書類の例などを掲載したものはかなり限られていたと思います(確認したわけではないのですが,パッと思いつくものはありません)。そのような中,議決権行使書面の例や貸借対照表・損益計算書の例を掲載しているなど,具体的イメージがつきやすいように記載されているのは,本書の特徴と思います。あと,columnを中心に,しれっと高度な内容にも言及されており(例えば,DESとか司法試験レベルは越えてますよね…?),そういう意味では読み応えのある一冊だと思います。

 他方,リークエシリーズとしてまとめる必要があったことの反動か,流すように記載されている箇所も多々見受けられます。事例問題の演習を行った際や具体的な案件の際に本書を参照しても,知りたい内容が書かれていないということはしばしば生じるものと思います。また,これが結構な問題だと思うのですが,リークエよりも後に刊行され始めた田中亘『会社法(第2版)』(東大出版会)が,大は小を兼ねるという感じで,本書に書かれているような内容をより親切に記載してしまっています(特に,リークエの田中先生分担部分は,田中会社法の方で網羅されたうえで,より丁寧な記載になっていると思います)。そうすると,1000円多く払って田中会社法を買った方がよいのでは?という問題が生じてしまうように思います。

 とはいえ,上記で出てきた田中会社法はかなり大部ですので,親切な記載ぶりではありますが,最初の一冊に使うには厳しい面があると思います。理由付けがないなどの点も,この厚さの本であれば仕方ない面もあり,詳細は判例集やコンメンタールを参照しろということかもしれません。本書は,学部生やロー生の基本書として,今後も広いシェアを占めていくことになるのではないでしょうか。

 なお,こちらのPDFファイルで,取締役の報酬その他の令和元年改正についての補遺も出されており,法改正対応もなされているようです。

by Q.Urah