書評>唐澤貴洋『炎上弁護士』

『炎上弁護士』

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【書誌】

コメント

 弁護活動から大炎上に至った著者による一冊。

 書店では法律書コーナーに置かれていますが,インターネット関係の法律を説明したというより,唐澤先生の自伝といった方がジャンルとしてはあっているのかと思います。前半部分は唐澤先生の弁護士に至るまでの半生を記したものです。弁護士になるまでに様々な苦難があったことが窺えます。後半は,掲示板の書き込みに対する削除請求から炎上に至ったという経緯,どういう嫌がらせがなされたのかが記され,プロバイダ責任制限法に対する見解も書かれています。唐澤先生が弁護士としてどのように立法活動に関与していくかは分かりませんが,少なくともインターネットの悪用事例としてリーディングケースを経験されているだけあり,今後の立法に何らかのかかわりを持っても不自然ではないとは思いました。

 少々残念なのは,ネットに書き込まないのが安全と保守的な主張になってしまっていたことでしょうか。唐澤先生は過激な炎上を経験されているので,身を守る方法を真剣に考えなければならないというのは十分わかるのですが,不特定多数者で叩けば沈黙させられる,というのを肯定することになるのではないかとも懸念するところです。弁護士は,刑事弁護が顕著ですが,一般的に叩かれている人を弁護するのも職務ですから,こういう活動に悪影響が生じないようどうすべきか考えさせられます。あと,(秒刻みで組まれてるはずの)生放送で台本無視はダメなような…

もっとも,発信者情報開示について検討の余地があるというのは納得できます。誹謗中傷のみならず,電子決済を用いた詐欺等でも,発信者を速やかに特定し,次の段階へ移る必要があるとは思うので,この辺りは今後の立法に重要な示唆を含んでいるのではないでしょうか(もっとも,TorとかProxyとかちゃんと使うと辿るのが困難を極めるので法整備だけでどうにかなる問題ではないところですが)。

 インターネット法務についての概説書というわけではありませんが,日本を代表する炎上(訳わからないところまで延焼しており,どう考えても無関係な修習先の弁護士会がクラッキングで巻き添え食らったりしていました)に関心がある人等は読んでみてもよいのではないでしょうか。

by Q.Urah