書評>柏木亮二『フィンテック』

『フィンテック』

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【書誌】

コメント

 野村総研上級研究員であり,経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)」メンバーである著者によるFintechについての概説書。

 本書では,まず,Fintechという言葉が,概括的にはITを活用して新たな金融サービスを提供する者を指すところ,サービスがデジタル化された1.0段階,金融サービスが分割された2.0段階,分割されたサービスが「部品」となる3.0段階,これが組み合わせられて新たなサービスが提供される4.0段階と展開の歴史が記されています。また,具体的に提供されているサービス,新たなサービスがこれまでの実務に与える影響の見通しにも触れられ,仮想通貨に関する話題やクラウドファンディング,P2Pファンディング等にも触れられています。そのうえで,本書は,今後の日本におけるFintechの展開,業法規制の在り方という点についても検討しています。新書でコンパクトでありながら,要点を的確に押さえて概観した一冊といえるでしょう。

 Fintechとされるものに含まれる内容が膨大になっている中,著者の主張するように,「Fintech」という大枠について議論をするより,個々の技術,ビジネス内容に着目した議論をすべきだというのは,もっともでしょう。議論の整理のためにも細かく見ていくのが重要であることは確かだと思います。一方,現在の業法の規制はうまくいっていないのではないかという問題提起には賛同できるものの,弾力性のある制度にすべきという点は慎重さが求められるとも思いました。IT活用時の個人情報の取扱い,安全性の確保にはまだまだ課題が多いと思いますし,規制の外延が弾力的というのは,ある意味どこまでやっていいのかわからずリスクが生ずるともいえ,制度設計として言うは易く行うは難しといったところだからです。犯罪収益移転・資金洗浄に悪用することも当然想定される一方,本人確認等の措置を厳格にしてしまうと新たなサービスの利点であるはずの柔軟性が削がれてしまうので,この辺りもどう対処すべきか気になるところです。今後の金融庁等における検討の推移に注目したいところです。

 欲を言えば,Fintechについては技術や法分野が幅広く関係するという性質上,複数の省庁で様々な形で検討がなされるので,巻末見開きで参考文献・参照先として,関係省庁の研究会や審議会等の検索先も挙げていただきたかったところです(徒手空拳で調べようとすると金融庁やら経産省やらに分かれた上,さらに研究会も複数あるので調べるのが面倒)。

 新書版でコンパクトに,2016年時点の議論や実用化の状況が整理されている本なので,Fintechとはどういうものをいうのか概観したい方にはちょうど良い一冊なのではないかと思います。

by Q.Urah