書評>北岡伸一『日本政治史―外交と権力(増補版)』

『日本政治史―外交と権力(増補版)』

bookcover

【書誌】

コメント

 日本政治史の第一人者である著者による,近現代日本政治史の概説書。

 本書では,明治維新の前段階から,冷戦集結に至るまで,近現代日本の政治史が通史として執筆されています。増補版として変更があったのは,補章で日本の植民地(満洲国は傀儡国であるが便宜上こうくくったとのこと)であった5地域についての記述が加わった点です。

 明治維新頃から日中戦争・日米戦争に至るまでの政治史が,重要な出来事を漏らさないようにしっかり書かれており,近代日本政治史を概観したい方にはお勧めできるのではないかと思います。また,本書の記述は,それぞれの時点における個人レベルの役割,集団レベルの役割,国レベルの役割がバランスよく書かれており,どういう主体がどういうインパクトを持っていたのか感じ取ることができるようになっているので,これも本書の特徴として挙げられるでしょう。

 一方,本書は明治・大正期の記述に紙幅を割いた分,第二次世界大戦後冷戦期の記述はかなり省略されており,必要最低限のことを書いたという感があります。同著者は『自民党―政権党の38年』(中公文庫,2008)を執筆しており,こちらの方が日本の戦後政治史を見るうえでは充実しているのではないかと思います。また,政治史に焦点を当てているので,市井の動向については記述が薄くなっているようにも感じられました。このあたりも類書を当たった方がよい点といえるでしょう。

 著者は東大法学部の日本政治外交史の講義の前任者でもあるので,大学の講義で日本近代政治史をどのように講じているのか興味のある向きは,さしあたり本書を手に取ってみるというのは有益ではないかと思います。

by Q.Urah