書評>北岡伸一『世界地図を読み直す』

『世界地図を読み直す』

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【書誌】

コメント

 日本政治史の第一人者でありJICA元理事長の著者による,日本外交・日本の国際協力について具体例を踏まえて記述した一冊。

 北岡先生がJICAの理事長をされていた時のご経験を中心に,いわゆる「大国」以外の国々(とはいえロシアやブラジルといった国は含まれていますが。)の歴史や日本の協力関係について,雑誌連載の投稿を加筆修正して一冊にまとめた本です。

 普段スポットライトの当たらないような国々にも焦点が当てられており,これまで知らなかったような国々の様子を知ることができ,興味深い一冊だと思います。また,北岡先生が現地に訪問されたご経験をもとに書かれているので,生き生きとしたその国の様子が伝わってきます。そして,それぞれの国が日本とどういう関係にあるのか(インフラ整備での関係性であったり,資金援助の在り方であったり)も伝わってくる一冊です。

「非西洋から発展した歴史を基礎に,民主主義的な国際協調体制を,それぞれの国の事情に応じて支援していくこと,これが日本の理念に他ならない。それを自覚し,言語化し,かつ戦略的に行動すること,これが今後の日本外交の大方針ではないだろうか。」(251頁)という結びは,北岡先生の日本外交・国際協力に対する想いも伝わってく記述です。

 もっとも,本書は,雑誌連載を集めたという面があるので,研究者が各国の外交情勢について分析を加えたものと思って読んでしまうと,肩透かしを食らった感を受けると思います。研究者による一冊として読むよりは,研究者やJICA理事長としての経験に裏打ちされた各国訪問記,エッセイ集として読んだほうが,予想と外れて拍子抜けするということはないように思われます。

 南太平洋とか北アフリカ以外のアフリカ諸国とか,なかなかスポットライトの当たらないようなところの記述もあり,国際協力や外交に興味のある方は,手に取るとよい一冊だと思います。

by Q.Urah