書評>高護『歌謡曲―時代を彩った歌たち』

『歌謡曲―時代を彩った歌たち』

bookcover

【書誌】

コメント

 音楽プロデューサー・評論家である著者が,日本の歌謡曲を多様な観点から書き出したディスコグラフィ。

 本書の特色としては,まず,60年代から80年代の歌謡曲を中心として,作詞家・作曲家・編曲家・歌手という側面,時代背景,作品や作家の影響といった,様々な視点から記述されており,取り扱う範囲が幅広いということが挙げられます。また,音階やリズム等に着目した音楽的分析もなされているのも,歌謡曲を取り上げた書籍ではそこまで見られないものであり,興味深い一冊だといえます。

 もっとも,新書という紙幅がかなり限定される媒体で,これだけ幅広い範囲・観点をもって記述を進めていくと,個々の事項の記述はどうしても薄くなりがちなのか,という読後感はありました。60年代ならGSとか70年代のアイドルとかそれだけでも一冊書ける内容のあるものだから,より厚く論じられる媒体での著書もあればいいのになあと感じます。あと,紙面の都合上きりもいいので仕方ないところではあるのですが,昭和の終わりで切れてしまっているので,現在にどうつながっていくかという点もどこかで紹介されていれば,若手の読者にもより読みやすくなるのではないかと思います。

 私の場合,作詞家に関心があって長いこと歌謡曲ファンをやっているのですが,西條八十の与えた影響等,「ここは着目してほしい」と思っていた点がしっかり触れられていたのは,さすが歌謡曲で本を書くだけあると思いました。私がまだ知らなかった歌謡曲も触れられていて,歌謡曲に関心のある向きなら,相当コアなファンだと自負している方でも読んでみて損はないかと思います。

 とはいえ,文字で見るだけでは楽曲の良さ(特にメロディとか)は分からないので,原曲を聴いた上で本書を読むことをお勧めします(8~9割聴いたことがあれば大体イメージが湧いてくるでしょう)。修習の同期なんかだとちょっと前の曲だと知らないという人も多いので,ぜひ歌謡曲の醍醐味が広まればよいと思います。

by Q.Urah