書評>窪田充見『不法行為法(第2版)』

『不法行為法(第2版)』

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【書誌】

コメント

 不法行為等を専攻される先生による,神大ロースクールの講義をベースにした不法行為法の基本書。

 学部3年時の民法第2部の指定教科書だったので持っているのですが,窪田先生らしい軽快な語り口で不法行為法の全体像が語られています。第2版では,約10年ぶりの改訂に伴い,JR東海事件など最近の重要判例も含め,近時の議論までフォローアップされるようになりました。また,消滅時効などにおいて,民法改正を踏まえて説明の修正が必要になった箇所についても,適宜改正を踏まえた記載になっています。

 講義がベースになっており,不法行為法の基本的構造を理解できるように書かれたというだけあり,記載は丁寧です。一見潮見先生の本などと比べると極めて分厚いように思いますが,窪田先生が丁寧に描いたり,具体例を挙げながら説明したりした結果なので,厚さはそれほど気にならないと思います。また,コラムは発展的な内容を含んでおり,興味深いものです。答案の書き方的な記載もあり,(そういう記載の宿命として,少々捉え方には気を付ける必要があるとは思いますが,)読者にとってどのように不法行為を論じればよいか,参考になるのではないかと思います。

 もっとも,損害について損害事実説を前提にしていることなどの関係で,少々自分で活用しようとすると,難しい部分もあると思います。そのため,いわゆる「試験向き」の本(日本評論社の『基本~』シリーズのような本)ではないと思います。また,窪田先生としては基本書として書くから文献引用等を抑えたとのことですが,これは裏目に出ていると思います。百選とリマークスくらいしか基本的に引用がないのですが,興味がなければ読み飛ばせというスタンスにしておいて,引用文献も脚注に放り込んでおいた方が,特に長く使える本にするという観点からは,よかったのではないかと思います。

 不法行為法も複数の基本書が出版されており,シェアとしては,潮見佳男『基本講義 債権各論II不法行為法(第3版)』(新世社,2017)(潮見先生の黄色い本)の方が大きいと思います。もっとも,総じてみれば,本書もよい一冊であり,これを基本書にしてもよいと思います。

by Q.Urah