書評>久米郁夫『原因を推論する』

『原因を推論する』

bookcover

【書誌】

コメント

 政治学の第一人者が因果関係の分析方法について解説した本。

 科学的分析において反証可能性が求められることに触れたうえで,①独立変数と従属変数の共変関係,②独立変数の変化が従属変数の変化の前に生じていること,③ほかの変数を統制しても共変関係が観察されることという,3つの条件を軸に据えて,政治学の先行研究を例に挙げて分析の方法を概説しています。

 平易な語り口ながら,因果関係を分析するにはどうするか注意すべきポイントが要点をしっかりと挙げており,原因と結果をどのように考えるかが分かる内容になっています。本書が広く読まれるようになれば,擬似相関に引っかかるなどの事態は減るのではないかと思います。また,政治学の先行研究にも触れており,本書で取り上げた分析方法が実際の研究でどのように使われているのかという点が伝わるのもよい点でしょう。

 新しいことを書いた本ではないため,キング=コへイン=ヴァーバの『社会科学のリサーチ・デザイン』などをすでに読まれた方にとっては,新たに読む必要性は高くないと思います(教養の講義を持つなどされる場合は別ですが)。また,本書の守備範囲から外れるところではありますが,より厳密な議論をするのであれば,4章の箇所であれば統計学の知識も必要になってくるなど,さらに深掘りする必要は出てきます。

 本書は,著者の専攻が政治学であることなどが理由に,政治学を念頭に置いた説明がなされ,副題にも「政治分析方法論のすゝめ」とあるものの,本書で占めされた因果関係の分析方法の内容は,他の分野でも一般的に応用可能なものです。政治学専攻を予定されている方以外も,幅広い層にお勧めできる一冊と思います。

by Q.Urah