書評>前田健太郎『女性のいない民主主義』

『女性のいない民主主義』

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【書誌】

コメント

 気鋭の行政学・政治学研究者による,ジェンダー論の観点から既存の政治学を捉えなおした一冊。

 本書は,第1章「政治とは何か」,第2章「民主主義」の定義を考え直す,第3章「政策」は誰のためのものかおよび第4章誰が,どのように「政治家」になるのかという4章構成で,一般的な政治学の理論を紹介しつつ,ジェンダーの観点を背景において,政治学でなされてきた議論を捉えなおしています。話題になったこともあり,諸表等は様々出ていますが,著者のコメントの中でも東大新聞に寄せられたものが比較的詳細です。

 ハンチントンの民主化の波とかエスピン=アンデルセンの福祉国家論などの,本書で登場する政治理論は,一般的な政治学の教科書でおそらく紹介されているものです。こうした理論について,例えばハンチントンの民主化の波は,女性参政権という視点を欠いたものであって民主化の歴史の見方をゆがめてきたという議論(ニュージーランドという国名が民主化の話で挙がるのは稀ではないかと思います。)を紹介しています。そのほかの箇所でも,従来の理論に対し,批判的に検討を加えており,興味深い内容となっています(特に,わたくしの場合,教養の選択必修の政治学の2単位分と,法学部の必修の政治学4単位分は女性の教員が担当していたにもかかわらず,このような観点からの講義はなされていなかったと記憶しているので,そういう意味でも興味深く読むことができました。)

 著者はジェンダー・クオータ(候補者や議席の一定数を女性と男性に割り当てる仕組み)を取り上げ,男女双方に目配りのなされた政策がなされるための前提として,候補者及び議員の男女比が均等になるようにすることを示唆しています。もっとも,既に男性議員が多く,世襲も一般化している中で,こうした策が実現できるかといわれると,ハードルは相当高いようにも思われます。また,政党側が女性候補者を募れば,女性候補者が十分に集まるのかという点も検討が必要なところでしょう(東大の先生だと,女性の入学者が大学側で何をしてもなかなか増えない(社会側の要因もある)ことは実感されていることと思います。)。こうした点について,さらに後続の研究で議論が深まることは楽しみにしたいところです。

 本書は,新書ながら非常に読み応えがあり,著者の問題意識及び意欲もひしひしと伝わってくる一冊で,広くお勧めできる本です(特に,大学の政治学(ポリサイ)の講義が外国の理論の紹介ばかりで飽きてしまったという人などは,本書をひも解くと刺激を受けると思います。)。

 そういえば,「おわりに」のサーキージアンによる「囚われの姫君」の話を読んで,確かにそうだなあと思った一方,最近のゲームってスマブラみたいな感じでピーチ姫もマリオとかクッパと同様にアクティブに動いてないか?とも思った次第です。

by Q.Urah