書評>三谷太一郎『日本の近代とは何であったかー問題史的考察』

『日本の近代とは何であったかー問題史的考察』

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【書誌】

コメント

 日本政治史の大家による,近代日本を複数の焦点から見直し,将来への展望を示した一冊。

 本書は,日本の「近代」がどういうものであったか,ウォルター=パジョットの「議論による統治」を参照したうえで,日本の政党政治がなぜ成立したのか(第1章),日本の資本主義はなぜ成立したのか(第2章),日本がいかにして植民地帝国になったのか(第3章),天皇制とは何であったか(第4章)という4つの問いから検討します。

 それぞれの問いは,ややもすれば大風呂敷を広げて回収できなくなるというおそれもありそうな,大きな問いでありますが,著者はこれらに対し,史料を丁寧に取り上げ,分析していくことで,しっかり理由を示して答えています。また,「日本の政党政治はなぜ崩壊したか」ではなく「日本になぜ複数政党制が成立したのか」という点や,鴎外を参照して日本における文芸的公共性に着目する点あたりは,著者の切り口が表れているところで,本書は新書ながら,そのような視点も提供してくれます。

 また,本書の読み応えは,著者の古典に対する深い素養によって裏打ちされているようにも思います。パジョットの議論を踏み台にして近代日本を捉えなおしてみるという試みもそうですが,マックス・ウェーバー,森鴎外ほか様々なところから分析の視点であったり概念であったりを得ています。こうした著者の視野があってこそ,史料を丹念にかつ綺麗に捉えることができ,本書のような少ないページ数のなかで魅力にあふれた記述ができたのでしょう。

 かなり読み応えのある本であり,満を持して勧められる新書なので,日本近代に関する本を読んでみたいという人はもちろん,ある程度学修したと思う方もぜひ一読すると良いと思います。

by Q.Urah