書評>水野祐『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』

『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』

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【書誌】

コメント

 気鋭の法律家による,「リーガルデザイン」の素描であり,法を創造性・イノベーションを加速させるものとして捉えなおす一冊。

 まず,言い訳というより,誤解を招かないように注意から。無理やり知財に分類してみましたが,本書を「知財」という枠で捉えるのは適切ではないように思います。本書は,「~法」という分類に囚われず,法を創造性を加速させるための道具として広くとらえているように思います。さしあたり,どこに分けるか微妙だったので,とりあえず今まで知財の括りで話されてきたような内容も多いことから,知財カテゴリに入れてみたというだけです。実際,書店ごとに,基礎法の本と並べられていたり画集とかデザインの本と並べられていたり(!)いろいろなところに置かれています。

 さて,本書の内容ですが,リーガルデザイン総論と各論という2部構成です。総論部分では,アーキテクチャ・構造とコモンズ・余白という2つの概念を柱として,個々人がいかにルールメイキング・デザインの主体となり,より創造性・イノベーションが活発な社会ができるか,リーガルデザインの試みを示されています。各論部分では,音楽や二次創作といった知財分野の最新論点でも扱われるような部分から出発し,金融や家族といった他の分野にもリーガルデザインの考え方が活用できるのではないかと,問題提起,視点の提示がなされています。法というと行動を制限する方向に作用するイメージがありましたが,逆方向に作用しうる(違法な領域が明確になることで,企業が法に触れるリスクが低いと判断し,新たな活動を実行できる等)ことをうまく示しており,興味深い内容だと感じました。

 本書の難点は,紙面の都合もあるのか,各論部分が深掘りが十分ではないと思われる点です。(VR等も出てくる中での)ゲーム,ファッション,アーカイブ等,本書で取り上げられた内容はかなり深く論じられるテーマであり,より分量を割けば,著者の見解の鋭さからして面白い内容になることが予想できるので,問題点や見通しの提起で終わってしまうのは残念だと思いました(これだけでも普通は書けるものではないでしょうし,十分面白いのですが)。あと,あとがきで10年後くらいにとおっしゃっていますが,もう少し早めに次のご著書を拝読したいと思います。

 もっとも,技術の成長が著しく,法をめぐる状況も急展開する中で,あらゆる問題を深く書けというのは,一冊の本に求めるべき内容ではありません。本書は,これからの時代に法をいかに活用していくか,先鋭的な問題意識を提起しており,非常に刺激的な一冊ですので,一読されることをお勧めしたいと思います。

 こういう形で活躍される弁護士が増えると法曹への見方も変わってくるのだろうなあ(とはいえ,自ら領域を開拓していくような方は滅多にいらっしゃらないからこそかっこいいのでしょうが)。

by Q.Urah