書評>中村直人=山田和彦『弁護士になった「その先」のこと。』

『弁護士になった「その先」のこと。』

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【書誌】

コメント

 会社法務の第一人者である著者が,中村・角田・松本法律事務所で行っている新人向け研修を書籍化した一冊。

 スケジュールの立て方や仕事の進め方,調査の仕方,利益相反や守秘義務違反との関係でやってはいけないことといった広く弁護士一般に求められる内容から,営業の仕方,長期的な方向性,事務所運営といったパートナー弁護士に求められる内容まで,著者が所内で行っている研修の内容が書かれています。

 仕事の納期に遅れない,進捗報告をする,法律相談は1両日中に返答する,主任弁護士は、3週間前、つまり今から1週間以内に起案すべきだなどなど,圧倒的にスピード感ある仕事を大切にされていることが窺え,これが重要だというのはその通りだと思います。また,民訴法・民訴規則を叩きこんでおくとか厚い訴訟記録でも何を聴かれても即答できるようにするとか,わかってはいるけれどもなかなか難しいなあと思わされつつ,実にもっともである指摘もされています。このように,本書は,弁護士が仕事をしていくに当たって心がけるべき内容が広く記載されているように思います。また,営業の仕方として執筆・講演会のポイントに触れられていたり,専門領域・日々の研鑽(法と経済学とか統計学とかが挙がっているのは中村先生が会社法を強みにしておられるからという感があります。)といった点も触れられていたりで,まさに弁護士になった「その先」が意識されています。

 もっとも,既に弁護士になっている人であれば,事務所で本書に書かれているような内容を言われていることはあるのではないかと思います(Twitterなどでもそのような声を見かけました)。そのような人にとって,本書をわざわざ買う必要があるかというと,そこまでは言えないと思います。あと,記載内容・挙げられている例の一部は中村・角田・松本法律事務所の執務体制を前提にしているところがあると思います。この辺りは読者各位で自らの環境に引き直して,適宜読み替える必要もあるでしょう。

 内容はもっともなので,修習生や司法試験が終わった方など,これから(特に会社を顧客とした案件を取り扱う)弁護士になろうと考えている方,入所した事務所で一切指導のようなものがない方などは読まれるとよい一冊ではないかと思います。

by Q.Urah