書評>西田典之『刑法総論(第3版)』

『刑法総論(第3版)』

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【書誌】

コメント

 西田先生の刑法総論です。山口先生の本と並んで,学部の指定教科書の一冊にもなっておりました。

 本書は,東大の刑法第1部の講義を学生が書き起こしたもの(シケプリ)を基礎として,これに加筆修正して執筆されたとのことです。内容は,判例及び学説を紹介したうえで,西田先生の見解を示していくというスタイルが中心になっており,このあたりも講義が基になっているのを感じさせます。これも講義由来というところに起因するのか,具体例も多めで,刑法総論という抽象的な議論が多い分野でイメージをつかんでいくには良い本だと思います。また,著者が共犯論で助手論文を書いたということもあるのか,(65条のところではないですけど,)共謀共同正犯の説明のところはなるほどと印象に残っています。

 もっとも,あくまでわたくしの個人的な印象に過ぎませんが,シケプリベースだからか記述が一部冗長になっている気がします(学生の書き起こしを見たことがある人ならわかってもらえると思います)。西田先生が少数説であっても,自らの見解をしっかり打ち出されるのも相まって,しっかり咀嚼しないと,実用化するのは難しいように思います。また,因果関係は,危険の現実化で考えている人には少々食い合わせが悪いかと思います。あと,どうしようもないことですが,西田先生が亡くなったので,改訂はなかなか見込まれないでしょう(各論は橋爪先生が補訂しましたが,総論は構成上本文に手を加えずに補訂するのが難しいのではないでしょうか)。

 個人的には,よい本だとは思うのですが,学部2年生(熱意ある人を特に固めたわけではないはず)のシケプリが下敷きになったせいか,各論に比べると見劣りするかなあと思ってしまいます(むしろ各論が傑出しているといった方がいいかも)。ご存命のうちにシケプリベースでないご本を書かれていたら,と思うと少し残念な気がする一冊です。

 (追記) 各論に続き総論も橋爪先生補訂で改訂するそうです。改訂は見込まれないと思っていたので,よいお知らせだと思いながらも,少々意外なところです。しかし,原文を活かしつつどうやって改訂するんだろうかあれ…改訂の難しさが各論と比べられないレベルの気がするのですが…

 (追記の2乗) 各論と同様に,原文を残しつつ,新たな判例や議論の展開をフォローするという形で改訂がなされていました。危険の現実化の辺りがもともとがボヤっとしている感があったのですが,改訂箇所でかなり整理されたように思います。

by Q.Urah