書評>西田典之(橋爪隆補訂)『刑法各論(第7版)』

『刑法各論(第7版)』

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【書誌】

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 西田先生の刑法各論です。山口先生の本と並んで,学部の指定教科書の一冊にもなっておりました。西田先生がお亡くなりになってから改訂されないのかと思っていたところ,この度西田先生の弟子である橋爪先生が補訂を行い,法改正や最新判例を盛り込んだ改訂がなされることになったようです。

 本書は,個人の法益に関する罪,社会的法益に関する罪,国家的法益に関する罪とポピュラーな分類に基づいて,刑法の各犯罪をそれぞれ概説する体系書です。各罪名について,まず条文を挙げ,構成要件ごとに解説を加えていくというスタイルが貫かれており,非常に読みやすくなっています。条文が挙げられていることで,さしあたり条文をスタートにするという姿勢が示されているのもよいところです。

 構成要件の定義や判例の考え方が示されたうえで,議論のある部分については学説及び西田先生の見解を挙げる方式で,明快にまとめられており,読者としても議論が整理されていて助かります。また,橋爪先生の補訂が入っていますが,法改正等で新しくなった部分の必要十分な限りでの補訂なので,新しい情報はしっかり盛り込みつつ,もともとの整理の上手さは依然として保たれています。性犯罪関係の法改正や危険運転致死罪の新設は改版前に比べた場合,大きな動きですが,本文のバランスが崩れることもないように感じました。また,本文に付け加えにくい箇所は,途中の切りのいいところで段組みを変え,縦線で見やすくして挿入する形にしている(強制わいせつ罪の性的意図の要否の判例とか詐欺罪の暴力団のゴルフ場の判例など)ので,補訂に当たり,新情報はしっかり取り込みつつ,原文も尊重するという姿勢が貫かれています。

 先生方が最初から体系立てて書かれた本なので,総論に比べ議論が整理されている印象があります。引用も相当程度なされているので,刑法各論を学び始めた人から法曹関係,研究者までとりあえず一冊持っておくべき刑法各論の本なのではないかと思います。

by Q.Urah