書評>野矢茂樹『大人のための国語ゼミ(増補版)』

『大人のための国語ゼミ(増補版)』

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【書誌】

コメント

 駒場の哲学者・論理学者の野矢先生が論理トレーニングが国語に行きついたとして出された一冊。「愛の本」らしいです。

 初版と構成は一部修正が入ったのを除きほぼ同じで,増補版ではエッセイと対談(対談の内容はネットでも公開されています)が付録として追加されています。

 まず,分かりにくい文章の例を挙げ,なぜそのままだとわかりにくいのか,それをどうすれば分かりやすくなるのか,具体的に手を動かして検討する形で,どう表現すれば相手に自分のいいたいことをわかってもらえるのか検討することができるようになっています。

 また,『論理トレーニング101問』なんかのデジャビュ感はありますが,接続詞の使い方についても,具体例・演習問題を交えて書かれています。もし受験生等で文章の書き方で困っている人がいたら,とりあえずこの部分は勧めたいという内容です。そして,要約問題も付されており,言いたいことの幹はなにか,枝葉はなにか,という表現中の重要性の濃淡についても演習問題を通して学ぶことができます。こうした要約問題は,相手の言いたいポイントをつかんだり,こちらが言いたいことを端的に表現したりする能力を鍛えてくれるものです。

 こういう,相手のことを考えて表現する,相手の言いたいことを理解するというところが,「愛の本」たるゆえんのようです。

 さらに,事実と推測・意見の区別であったり,論証の注意点(根拠の強さはどの程度か,ありうる反対仮説を見落としていないかなど),質問・反論の仕方であったり,この辺りは法律家でも注意すべき点としてよく言われるところです(理由を原因と根拠に分ける辺りはかなり細かいと思いつつ,なるほどとも納得できる内容でした)。そうすると,言葉を使う仕事である法曹を養成する機関である司法研修所でやるような内容までカバーしているといえ,国語を特に仕事として用いる者であっても学ぶところは大いにあります。

 そういうわけで,「大人のための」といいマンガも挟まるので,学びなおし系のあっさりとした一冊かと思いきや,幅広い層に有益な情報を含んだ,演習問題に取り組めばなかなか骨のある一冊です。高校生等現に国語の授業を受けているという層にも有用でしょうし,法曹のような言葉を用いる職業の方にも有益な一冊でしょう。

by Q.Urah