書評>大村敦志=道垣内弘人(編)『解説 民法(債権法)改正のポイント』

『解説 民法(債権法)改正のポイント』

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【書誌】

コメント

 審議会構成員も含む複数の研究者による,民法改正の概説書。

 本書は,第一章で改正の趣旨を説明した上で,第2章で改正があった項目について網羅的に解説を加えています。そして,第3章,第4章では,編著者の大村先生と道垣内先生が,今回の民法改正を振り返ったコメントを寄せられています(研究者として,改正作業で達成できなかった部分のお話)。

 本書の目玉は,やはり概説書である以上,第2章の各項目の解説でしょう。本書では,まず,各項目の冒頭に,「改正のポイント」を挙げ,何がどう変化するのか,端的かつ明瞭に示されています。そして,各項目とも,現行法の内容と従来なされてきた議論がどういうものであるか説明した上,改正法の内容の解説に入るという構成で,説明されます。本文では,括弧閉じ方式で,従来の議論の内容の出典となる論文等も必要最小限は挙げられ,改正法については部会資料,議事録の該当箇所が挙げられています(わたくしは括弧閉じより脚注の方が好きなのですが,レイアウトの問題なのでまあ。)。特に,加毛先生執筆箇所(債務不履行,債権譲渡,弁済,相殺)の議論の整理の仕方,出典の挙げ方はスマートで,一読することをお勧めします。起草過程から審議会の議論まであの枠内でよく詰め込めたなあと,読んでいて感心するばかりでした。

 こういうわけで,大変充実した改正法概説なのですが,500ページ程度で改正があった部分全般を扱っているので,かなりスリムに,余分な記載は削った内容になっています(民法総則と債権総論・各論と考えたら500ページでもスリムです())。すなわち,改正がなかった部分についてはバッサリ切り落とされています。法学部・ローで民法を一通り学修したというレベルではないと,おそらく言っている内容が分からなくなるのではないかと思います。

 修習生等,現行法で勉強したが,今後の改正法を知っておきたいという人が現在何か一冊手許に置くのであれば,数多ある改正法関連の書籍の中で,本書はかなり良い部類に入るのではないかと思います。

by Q.Urah