書評>裁判所職員総合研修所(監修)『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究〔補訂版〕』

『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究〔補訂版〕』

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【書誌】

コメント

 和解条項についての概説と事件類型ごとの和解条項例が記載された一冊。平成21年11月までですが,初版に対し,法改正の内容を反映したり,判例・実務の動きを反映した補訂がなされています。

 導入修習で民弁教官の先生が,弁護士で持っている人がかなり多い旨の紹介をしていたので,研修所の売店で購入してみました(司法研修所の売店と霞が関(?)くらいでしか売ってないようです)。導入修習の和解条項起案では,この本に書かれている内容のうち,重要なところを取り上げたり,本書の記載のままだとわかりにくいところを交通整理したり,具体的な事案ではどういう点に注目してひな型以上の内容にしていくかということを解説したりして,講義がなされたように思います。

 司法試験だと和解条項というのはほぼ出てこないところなので,条項の類型や作成上の留意点(執行力を持たせるにはどう記載すべきか等),具体的な事件類型に応じた和解条項の記載例が掲載されているところは,さしあたり民裁・民弁修習に入るに当たってありがたい内容だと思います。

 もっとも,やはり和解というのは具体的事案に応じて,個々の需要に対応したものを作らないといけないので,記載例も最低限盛り込む内容や記載方法の参考程度にしかならないとは感じております。また,「実証的研究」と題名にあるのですが,調査がなされたのがかなり前(本記事執筆現在具体的な年次は不明ですが,昭和55年より前)であるからか,各裁判所に対する和解条項に関するアンケートの結果は省かれています。当時の調査の概要を知りたければ,書記官実務研究報告書19巻1号を確認しないといけません(司法研修所の図書室で確認してみたところ,調査結果自体は古いものですが,多数の裁判所ではこう記載されている,というのが分かるもので,興味深い内容になっていました)。

 本書はなかなか手に入らないことですし,記載例も流用では不十分であるというだけで,154種類の多様な類型が挙げられており有益であることから,修習に進まれた際には一冊購入しておくとよいと思います。

by Q.Urah