書評>佐久間毅『民法の基礎1 総則(第4版)』

『民法の基礎1 総則(第4版)』

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【書誌】

コメント

 佐久間先生の民法の基礎総則編です。改訂がめんどくさくなったから3版で打ち止め説が一時期西日本のほうから流れてきたので,意外かつ喜ばしい改訂版です。

 民法の基礎という題名だけあり,しかも総則で学部等で扱うなら最初に来ることも想定してか,「善意」と「悪意」とかそういう法律用語の説明も含め,最初に教科書として用いて問題ないように配慮がなされています。内容も,本文では条文から素直に考えられる事例又は概ね判例を題材とした事例をベースに展開していくので,ベーシックな場合や判例で問題になる場合はどう考えるのかつかみやすくなっています。94条2項,110条の法意併用と類推適用の意味の違いの説明など,丁寧に書かれており勉強になるかと思います。

 一方,発展学習や補論のコラムでは,なかなか高度な内容や議論のあるところに対する佐久間先生の見解も示されており,薄い内容の本ではありません。また,京大系の先生というだけあり,最初の一冊であることを想定しているはずなのに要件事実的な整理もなされており,ずっと使っていくことができる一冊です。そして,法改正の過渡期にあるということで,現行法をベースに記述した上,フォントを変えて改正法での考え方や見通しまでフォローされているのはありがたいところです。

 そんなわけで,高評価の一冊なのですが,できれば脚注をつけてほしかったというのはあります。文中で出てきた判例の引用以外,教科書として用いられる想定だからか注がなく,発展学習の内容など結構高度な部分の参照先が不明なのが玉に瑕でしょう。改正法の部分も,改正法関係の文献や議論のもととなっている部会資料や議事録が挙げられていると参照しやすくよかったのではないかと思います。高度な内容を含み,長く使える本なだけに,ここは残念ではあります。

 とはいえ,民法総則の基本書の中では必須の部分から発展的内容まで非常に整理されており,良書であることに変わりはありません。民法総則の基本書で迷っている人がいたら,これがいいのではないかとお勧めできる一冊です。

by Q.Urah