書評>佐藤大和ほか『マンガでわかる知的財産の新常識』

『マンガでわかる知的財産の新常識』

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【書誌】

コメント

 エンタメ関係等で注目される弁護士らによる,知的財産法分野の概説書((肖像権・パブリシティ権辺りが関係しないわけではないけれど)エンタメ分野の本ではありません)。

 とあるところで接する機会があったので,コメントすることに。会社内での知的財産にかかわるエピソードをマンガで取り上げ,それに即して,解説を加えていくという形で展開します。

 著作権や商標という,日常で接しやすい分野から始まり,特許や不競にも触れ,種苗法といったマイナー分野にも触れています(ここまで展開するのって小泉『知的財産法』くらいでしょうか?)。また,知財戦略という,いわゆる知財法の基本書には出てこないところも触れています。具体的ケースに即しているので,初学者,法律と無関係な人にわかりやすく説明するという意味では,よくまとめられた本だと思いました。

 マンガも加えて200頁強で,これだけ展開しているので,個々の記述はあっさりしています。また,パロディの限界がわかるとあったりするのですが,専門書や論文でも決着がついていないところですし,さすがに無理を言っている感が… あと,知財侵害を防ぐためにというところは,(仕方ないことですが)結構保守的で,どんどん活用したいという観点からは不満が残るところでしょう。

 法学部生など,法律をかじっている人であれば,平嶋ほか『入門知的財産法』あたりから入った方がいいような気がします。その方が,入門書としてのわかりやすさ,カバーしている範囲,文献リストにおいて,マンガはないけれども,かえって親切なのではないかと思います。知財戦略についても,本書の参考文献にも挙がっていましたが,鮫島先生の編著書を読めばいいでしょう。企業で知財を扱うならもう少し専門的な文献のほうがいいですし,本書が対象とする読者はどのあたりなのか,分かりにくいと思いました。

 さしあたり,法律とおよそ関係はないが,知的財産に興味があるので触ってみたいという人がいれば,本書の対象読者なのではないかと思う次第です。

by Q.Urah