書評>司法研修所(編)『改訂 紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造―』

『改訂 紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造―』

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【書誌】

コメント

 小型ながらかなり細かいところまで網羅した要件事実の概説書。71期の白表紙には入っていなかったものの,かつては白表紙の一部だったとか。

 法科大学院で要件事実を扱う場合,大体『新問研』と本書がセットで教科書指定されるかと思います。『新問研』が完全な入門書だとすると,本書はは中級レベル以上になるかと思います(結構溝があります)。

 本書は,代表的な請求原因で7章構成となっており,請求原因に対する抗弁以下も紹介する形で,よく用いる要件事実を網羅的に解説していきます。150頁くらいに詰め込んだ感があります。各章末に,その章で出てきた請求原因,抗弁,再抗弁をまとめたブロックダイヤグラムがあり,ある類型の主張に対してどういう抗弁等があるのか一覧できるので,便利ではあります。

 要件事実の一覧性には富むのですが,無駄な記載がないだけに,本書を一読して中身を完全に理解するというのは困難で,中身を会得するには,何回か繰り返す必要がある本だと思います。おそらく,「(司法試験を通過した)読者は実体法の理解が一定水準あるから,なぜこういう整理になるのか考えれば分かるだろう」という前提で書かれたのではないかと推測します。また,本書を学習に使う際の弱点は,記載例がないところだと思います。要件事実を取り出せても,それをどう記載していくかというところが,とりわけ起案との関係では重要になってくるところ,設例と記載例がないのは結構痛いと感じています(もっとも,修習に行くときには,白表紙の中に『事実適示記載例集』という素晴らしいアンチョコ(記載の仕方はとりあえずこれに従っておけとのこと)があるので,記載例についての問題は軽減されるのですが)。おそらく,予備試験や法科大学院あたりで感じられる『新問研』との溝というのも,このせいで余計に生じているのではないかと思います。あと,貸借型理論のあたりなどちょこちょこ古くなっていると思われる箇所も散見されるので,よく考えながら読む必要があるかと思います。

 外出先で手っ取り早く調べたい時や,二回試験前の復習とかであれば有益かと思い,今も手許に置いている一冊です。

 といっても,2020年には改正債権法が施行されるし,近年要件事実に関する書籍がたくさん出ているから,これから学修したいという人にとっては,改訂されない限り類型別まで買う必要あるのかなあとも思わないでもなかったりする今日この頃。

by Q.Urah